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NETISとは? 活用メリット5つと工期や費用削減の事例3選【施工者・発注者向け】
日本における人手不足の深刻化が予想される中、各業界でデジタルトランスフォーメーション(DX)が急速に進展。建設業界も例外ではなく、遠隔臨場の本格的な導入や施工会社の新技術情報提供システム(NETIS)の活用が求められています。しかし、まだまだNETISの活用が十分でない施工会社が多いのが現状です。
そこで本記事では、NETIS制度の概要や目的に加え、施工者や発注者がNETISを活用することで得られるメリットについて詳しく解説します。さらに、NETIS登録工法の例とその効果事例もご紹介するので、ぜひ参考になさってください。
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まとめ
- ・NETISとは国土交通省が管理するデータベースで、公共工事に関する新技術を収集・公開・検索可能にしたもの。
- ・NETISに登録されている新技術は従来の方法と比較して同等以上の効果が期待されるもので、工期や費用などのコスト削減につながるものが豊富に掲載されている。
- ・NETISを活用することで、施工者・発注者ともにその恩恵を受けられる。
目次
NETISとは?
「NETIS」は「NEw Technology Information System」の頭文字を取ったもので、国土交通省が運営するデータベースシステムです。公共工事に関するさまざまな課題に対処するために民間企業などで開発された技術情報を収集し、インターネット上で公開・検索可能にしたものを指します。
運用は平成10年から始まり、平成13年からはインターネットでの公開が行われました。現在、約3,000件の新技術が掲載されています。
国土交通省は建設業界が持続可能な発展を遂げるために新技術の導入を奨励し、生産性向上や効率化を促進しているのです。さらに、令和5年度からは直轄工事においてNETIS登録技術の活用を原則義務化する方針を打ち出しています。
NETISと人手不足の関連
不足の深刻化に伴い、建設現場における働き方改革や生産性向上を目指す取り組みが活発化しています。
例えば、国土交通省の方針により2022年から建設現場における遠隔臨場が本格的に導入されたことなどが挙げられるでしょう。
このような流れの中で、2020年度には国土交通省直轄の土木工事において、新技術の活用が原則的に義務化されました。ここでいう「新技術」には、NETISに登録された技術も含まれます。今後、公共工事に参加する施工会社は、NETIS登録技術などの新技術を積極的に活用することが求められます。そのため、施工会社は積極的に新技術を導入し、現場作業のデジタル化を進めていく必要があるのです。
【施工者側】NETISを活用することによるメリット
NETISを活用することによるメリットは大きいのだろうという予測はつきますが、具体的にどのようなメリットがあるのかを知りたいところです。
ここからは、施工者側から見たNETISを活用するメリットについて解説します。
1.工期や経費を削減できる
新技術の活用により、工期を短縮したり経費を削減することが可能です。NETISに登録された技術は、従来の方法と比較して同等以上の効果が期待されるため、業務効率や品質、安全性の向上が見込まれます。
2.公共工事の入札で有利になる
公共工事の入札においても有利になります。NETISに登録された製品を実際の工事で活用すると、その効果に応じて工事成績評定での加点の対象となるのです。また、総合評価方式では、NETIS登録製品の活用提案が評価の対象になります。
【発注者側】NETISを活用することによるメリット
NETISを有効活用することは、発注者側にも大きなメリットをもたらします。具体的には以下の3点です。
- 自社の新技術を広く知らせる機会となり、その認知度が向上する
- 新技術が実際に活用される機会が増え、市場での展開が促進される
- 技術の実用化により、さらなる改良や発展が可能となる
さらに、NETISへの登録と評価を受けることで自社の信頼性が向上し、新技術に関して「活用推進技術」としての認知を得ることもできるでしょう。
NETISの登録方法
ここからは、NETISに新技術を登録する際の手順について解説します。
- ・手順1:情報収集
まずは、NETISの公式サイト「NETIS登録」から登録手続きに関する情報を収集します。公式サイトでは、登録に必要なマニュアルや申請書類の様式が提供されています。 - ・手順2:申請書類の準備
収集した情報を元に、必要な書類や申請手続きを準備します。公式サイトには「チェックリスト」も用意されており、これを活用して申請書類の不備がないようにします。 - ・手順3:申請書類の提出
準備が整ったら、提出先の技術事務所に申請書類を提出します。提出先は各地域の技術事務所や関連機関です。提出時には窓口で書類を提出し、必要に応じてヒアリングが行われます。 - ・手順4:書類の確認と修正
提出された書類は事務所で確認されます。書類が完全で内容に問題がないかを確認し、必要に応じて修正が行われます。確認と修正には3カ月から半年程度の時間がかかります。 - ・手順5:登録
書類の確認と修正が完了したら、新技術がデータベースに登録されます。
申請情報と評価情報
登録された新技術は、「申請情報」と「評価情報」の2つに分類されます。申請情報は技術の開発者が提出した情報であり、評価情報は「新技術活用評価会議」によって評価された情報です。
登録情報の掲載期間
申請情報は登録された翌年の4月1日から10年間掲載されます。
NETISで情報を探す方法
NETISへの新技術登録方法が理解できたところで、「情報を探すにはどうしたら良いのだろう」と疑問に思う方もいらっしゃるでしょう。
以下から、NETIS登録技術の検索手順について解説します。
- ・手順1:技術の検索
まず、NETISの公式ウェブサイトで、活用できそうなNETIS登録技術を検索します。キーワードや工種、活用効果などから技術を絞り込み、詳細を確認します。 - ・手順2:申請情報と評価情報の確認
検索結果から選択した技術について、申請情報と評価情報を確認します。申請情報は技術の基本的な情報を提供し、評価情報は技術の実際の活用効果や評価結果を示します。 - ・手順3:登録番号の確認
NETIS登録技術には登録番号が割り当てられています。登録番号の末尾に含まれるアルファベットに注目し、技術の評価状況を把握します。末尾が「A」の場合は評価が未確定、末尾が「VE」の場合は評価が確定済みを示します。 - ・手順4:必要書類の作成と登録
NETIS登録技術を活用する際には、新技術活用計画書の作成と登録が必要です。評価が未確定の技術を活用する場合には、実施報告書と活用効果調査票も作成して登録します。 - ・手順5:施工者用マニュアルの活用
実際の書類作成や手続きについては、九州地方整備局が提供する施工者用マニュアルなどを活用します。これらのマニュアルには具体的な手順や書類の内容が記載されています。
以上がNETIS登録技術を活用するための基本的な手順です。
NETISの種類(識別番号)
NETIS登録技術には識別番号が割り当てられますが、その末尾のアルファベットは技術の状態を示しています。
登録番号の末尾が「A」の場合、まだ評価情報が掲載されていない技術であり、NETISには10年間掲載されます。(これまでの「A」登録期間は5年間で設定されていましたが、2023年度よりNETISに登録した翌年度から10年間の掲載期間になりました。)さらに掲載期間中に、「推奨技術、準推奨技術」に選定されると15年間の掲載期間となります。
この種の技術は、登録申請から一定期間が経過し、活用の効果の評価が行われれば、登録番号の末尾が「VR」か「VE」のいずれかに変更されます。
末尾が「VE」の技術は、活用の効果の評価が実施され、継続調査の必要がないと判断された技術、すなわち評価の確定した技術です。この種の技術は、NETISに10年間掲載されます。
一方、末尾が「VR」の技術は、活用の効果の評価が実施されて、継続調査の対象とされた技術です。こちらも「VE」同様に掲載期間は10年間となります。
工事でNETIS登録技術を活用する場合には、NETISのウェブサイト上で手続きが必要です。全てのケースで、新技術活用計画書を作成して登録することが義務付けられています。また、評価が確定していない技術を活用する場合には、実施報告書と活用効果調査票も作成して登録する必要があります。
NETISの種類(識別番号)は入札に対して加点要素になる?
識別記号は入札時に特定の加点を示すものではありません。加点幅や評価結果の優劣を示すのではなく、単に技術が活用効果評価会議にかけられたかどうかを示すものです。一般的に、「A」よりも「VE・VR」の方が広く評価されているとされますが、「A」が最近登録された場合でも、画期的な新技術であることに変わりはありません。
NETISの種類(識別番号)については以下の記事でより詳しく解説しています。ぜひご参照ください。
▶【2024年版】NETISの種類(識別番号)は6つ! VE・VR・A・V・AG・VGの特徴を解説
NETISによる加点評価の対象や仕組み
公共工事において、施工者がNETISに登録された新技術を使用すると、工事成績評定で加点されます。また、コスト削減や工期短縮などの効果が確認されると、加点率がさらに増加します。高い評定を獲得することで、次回以降の入札で有利な位置に立つことが可能です。
したがって、公共工事に参加する施工者にとって、NETISに登録された新技術の活用は不可欠と言えるでしょう。
具体的な加点方法については、NETIS公式ホームページの資料に記載されています。試行技術を活用した場合は2.0点の加算があり、さらに少実績優良技術または発注者による活用効果調査結果の総合評価点が120点以上の場合には2.0点が加算され、最大で4.0点の加点が可能です。
NETISの公式ホームページでは、新技術の登録方法や操作マニュアルが公開されていますので、確認しておくことが重要です。
NETISの加点の仕組みについては以下の記事でより詳しく解説しています。ぜひご参照ください。
NETISの効果事例3選
最後に、実際にNETISの新技術で工期や費用が削減された事例を3つご紹介します。
農免大橋における新技術活用事例(富山県小矢部市)
農免大橋は橋長が132.0mあるポステンT桁橋です。
対象部位は下部工、対象とする変状・損傷の種類は「ひび割れ」。
ひび割れに対して従来は「低圧注入工法」という、専用の低圧注入器具を使って対処していました。
そこで新技術である「ひび割れ補修浸透性エポキシ樹脂塗布工法」という、浸透性に優れた接着剤をひび割れに塗布することで補修できる工法を導入したところ、6,231円/mかかっていたコストが2,920円/mまで減少。
工程においても、4日/100mが1日/100mとなり、費用・工期ともに大幅な削減となっています。
※参考:国土交通省.「地方公共団体における新技術活用事例」.https://www.mlit.go.jp/road/sisaku/yobohozen/pdf/chiho-katsuyo-jirei.pdf(参照 2024-04-25)
当免橋における新技術活用事例(広島県福山市)
当免橋は橋長が108.9mのRC-T桁橋です。
対象部位は主桁と床版、対象とする変状・損傷の種類は「中性化」。
この中性化に対して、従来は有機系塗膜材による表面保護工法が行われていましたが、これは塗布回数が多く、施工性に乏しい点がネックでした。
新技術の「けい酸塩系コンクリート含浸材『SUPER SHIELD』」は、塗布回数は2回で済む上、含浸することでコンクリートが綿密化するという画期的なものです。
新技術を導入したことにより、労務費は5,010千円から780千円へ、機械経費は381千円から96千円、工程は55.5日から6日へと、大幅な削減を実現しました。
※参考:国土交通省.「地方公共団体における新技術活用事例」.
https://www.mlit.go.jp/road/sisaku/yobohozen/pdf/chiho-katsuyo-jirei.pdf ,(参照 2024-04-25).
千歳橋における新技術活用事例(東京都墨田区)
千歳橋は橋長が35.400mの鋼単純合成箱桁橋です。
対象は橋梁上部と鋼部材の「塗膜劣化及び剥離・腐食」。
この変状に対して、従来は鋼製ジョイントを使っていました。鋼製ジョイントは、後打ちコンクリートと周辺アスファルト舗装との段差により車両通行時に衝撃が発生する恐れがある、取り替えの際には全交換しなければいけないなどのデメリットが多くあります。
新技術の「ヒノダクタイルジョイントα」は、舗装面の段差が少なく走行性に優れていたり、取り替えの際には基礎モルタル部の再利用が可能だったりと、メリットが豊富です。
さらに、維持管理コストが従来1,023,800円かかっていたものが、626,800円へと削減することに成功しました。
※参考:国土交通省.「地方公共団体における新技術活用事例」.
https://www.mlit.go.jp/road/sisaku/yobohozen/pdf/chiho-katsuyo-jirei.pdf ,(参照 2024-04-25).
鷲の山第2橋における新技術活用事例(香川県坂出市)
鷲の山第2橋は橋長41.8mのπ型ラーメン橋です。
対象部位は上部工、対象とする変状・損傷の種類は「剥離」。
従来、コンクリート構造物剥落対策という、作業工程が多く施工に時間がかかる上、下地状況の確認が不可である工法で修繕を行っていました。
新技術の「タフメッシュ工法」は、シートが薄くて軽いため施工性が良く、ほぼ透明であるため事後も下地状況の観察が可能です。
施工費についても、2,250千円から1,650千円、安全費も710千円から304千円への削減が実現しています。
※参考:国土交通省.「地方公共団体における新技術活用事例」.
https://www.mlit.go.jp/road/sisaku/yobohozen/pdf/chiho-katsuyo-jirei.pdf ,(参照 2024-04-25).
泉山跨線橋における新技術活用事例(佐賀県有田町)
泉山跨線橋は、橋長12.3mのRC床版橋です。
対象部位は上部工の鋼材補強部で、対象とする変状・損傷の種類は「腐食」。
これに対して従来はRc-1仕様による再塗装を行っていました。しかしこの従来技術は素地調整から下塗り完了まで最短でも3日必要であり、新技術と比較すると工期が長期に及ぶのが大きなデメリットでした。
新技術の「アースコート防錆塗装システム」は、表面処理剤が鋼材面と反応し防錆皮膜形成するため素地調整の簡略化が可能な上、防錆塗料の性質により下塗りまで最短1日で施工が完了します。
素地調整において施工日数が約1/5へと減少しました。
※参考:国土交通省.「地方公共団体における新技術活用事例」.
https://www.mlit.go.jp/road/sisaku/yobohozen/pdf/chiho-katsuyo-jirei.pdf ,(参照 2024-04-25).
まとめ
本記事では、制度の概要や施工者・発注者にとってのメリットなどを詳しく解説しました。また、NETIS技術の活用に向けた工法の探し方や手続きについても触れています。
各業界、とりわけ建設業界では今後ますます人手不足が深刻化する見込みですが、建設現場でも遠隔臨場などのDX推進が活発化しています。数年前から、建設業者には公共工事におけるNETIS登録技術などの新技術活用が義務付けられました。
特に、最後にご紹介したNETIS登録済みの新技術とその活用事例からは、公共工事の入札や施工に限らず、新技術導入による現場DXのメリットをひしひしと感じていただけるはずです。
工期や費用を削減し、人手不足を越えていくためにも、NETISの積極的な活用を推進していきましょう。