2018.08.20

巻頭記事

 

雪寒対策事業の現状と課題


 

 

日本の国土の約60%は雪寒地域だ。そこに日本の人口の約20%が住み、長い冬や寒さの中で過ごしていかなければならない。

 

近年は暖冬少雪傾向といわれながら、雪寒地域では大雪が発生。深刻な被害を及ぼすと同時に膨れ上がる対策費の捻出に苦慮するなど過酷な状況が続いている。

 

本稿では雪国の暮らしを安全快適に保つための雪寒対策事業が、どのように進められているのか、そのあらましについて紹介する。

 

 

 

   豪雪や厳しい寒さから道路を守る

 

雪寒事業は、昭和31年に制定された「積雪寒冷特別地域における道路交通の確保に関する特別措置法」(雪寒法)に基づいて行われている。

 

積雪寒冷地とは2月の積雪深の最大値が累年平均50cm以上で、1月の平均気温が累年平均0℃以下の地域を指す。

 

この地域において国の定める交通量の基準に適合し、道路交通の確保が特に必要と認められた「指定道路」で、除雪や凍害防止を行う場合、国がその費用の2/3、防雪や凍雪防止の場合には6/10をそれぞれ補助する。

 

雪寒事業は、安全で快適な冬期歩行空間の確保のために、道路の除雪、雪崩・地吹雪対策のための防雪、消融雪施設の設置、凍雪害防止、除雪機械の整備、道路気象情報の提供などを行う。

 

 

雪寒事業の体系

                           出典:国土交通省(平成24年)

 

 

積雪寒冷地域

        出典:国土交通省(平成24年)

 

 

 

   建設機械や施設の整備による除雪や防雪などを行う

 

道路利用者が安全で快適に道路を利用できるように国ではさまざまな雪寒対策を実施している。

 

除雪事業

道路の除雪、拡幅除雪、運搬排雪、凍結抑制剤散布、歩道除雪、雪庇処理などにより冬期交通を確保する。

 

 

一般除雪(新雪除雪)

一般除雪(道路の平坦化)

 

拡幅除雪(道路を広げる)

運搬除雪(道路を広げる)

 

凍結抑制剤散布

歩道の除雪

                       出典:国土交通省 山形河川国道事務所

 

 

 

 

防雪事業

雪崩対策として、雪庇(雪をかぶった屋根や山頂などに風が一方的に吹き付け、その風下方向にできる雪の塊)が道路側に崩れる前に行う雪庇処理。

トンネルやスノーシェッド(雪崩から道路を守るために造られたトンネルに似た建造物)の中にできたつらら処理。

設置後30年以上経過しているものもある消融雪施設(消雪パイプ・ロードヒーティング等)やスノーシェッドの維持管理、チェーン着脱場や除雪ステーションの整備などの防雪事業を行っている。

 

 

雪庇処理(雪崩防止)

雪庇処理(落雪防止)

                       出典:国土交通省 山形河川国道事務所

 

 

 

凍雪害防止事業

凍上、融雪による路盤破壊のおそれがある箇所では、路盤改良を実施している。また、積雪により交通に支障を及ぼすおそれがある箇所について、流雪溝の整備、堆雪幅の確保などにより安全な道路交通を確保している。

 

 

流雪溝

    出典:国土交通省(平成24年)

 

 

 

   これからの課題

 

国土交通省では、突発的な大雪に対する道路交通への障害を減らすための具体的な対策など今後取り組むべき課題を検討するため、平成30年2月に学識経験者等からなる「冬期道路交通確保対策検討委員会」を設置し、3回にわたり検討を行った。

 

その結果、集中的な大雪が起こった場合これまでは「通行止めをできるだけしない」だったが、これからは道路ネットワーク全体として大規模滞留の抑制と通行止め時間の最小化を図る「道路ネットワーク機能への影響を最小化」への転換が提言されている。

 

また、大雪時の道路交通確保に向けた道路管理者等の新たな取り組みとしては、

・タイムライン(段階的な行動計画)の作成

・チェーン等の装着の徹底

・集中的な大雪時の予防的な通行規制・集中除雪の実施

・予防的な通行規制に伴う広域迂回の呼びかけなども

ポイントとして挙げられている。

 

 

雪に関する表現と主な取り組みの対応範囲(イメージ)

                    出典:国土交通省(平成30年)

 

 

 

   新しい技術を積極的に活用する

 

集中的な降雪時に対応し道路交通を確保するために、新しい技術を積極的に活用することも検討されている。その主な技術としては

① 高度化された除雪車の導入

② 除雪作業や除雪費削減のために融雪設備の整備の推進

③ 車線からのはみ出しやガードレールなどへの接触を防止するガイダンス機能の開発

④ 準天頂衛星、3Dマップや高精度地図を活用し、作業操作や自動位置確認・安全確

  認などを軽減する除雪システムの導入

⑤ 自動運転技術などを活用し、除雪車の自動運転に向けた検討 など

 

 

高度化された除雪車

 

 

除雪作業の省力化

        出典:国土交通省(平成30年)

 

 

 

   北海道で除雪自動運転の実証実験

 

北海道では除雪車を運転する熟練したオペレーターの高齢化により、冬期間に除雪を行う人手が不足している。また大雪のために、地域の要である国道の冬期間の通行止め件数も増え続けている。

 

少ない人手で増え続ける冬期間の国道の除雪を安全確実に行うためには、除雪車の省力化が課題だ。

 

北海道開発局では、こうした現況を踏まえて、平成29年から、一般国道334号(延長24キロ)で除雪車の自動運転の実証実験に取り組んでいる。先ず最初に延長24キロのうち、特に気象条件が厳しい5キロ区間で先行して3Dマップを作成した。

 

平成30年度には、準天頂衛星「みちびき」のデータなども活用しながら実験を行う。自動運転による除雪の省力化という役割を担っている本実験は、人手不足や異常気象に悩まされている全国の豪雪地帯にも適用できる新技術として注目され、その成果への期待も大きい。

 

 

知床峠実証実験に向けたスケジュール(案)

                            出典:国土交通省(平成30年)

 

 

 

                              (2018年8月時点)