雪寒対策事業の現状と課題
日本の国土の約60%は雪寒地域だ。そこに日本の人口の約20%が住み、長い冬や寒さの中で過ごしていかなければならない。
近年は暖冬少雪傾向といわれながら、雪寒地域では大雪が発生。深刻な被害を及ぼすと同時に膨れ上がる対策費の捻出に苦慮するなど過酷な状況が続いている。
本稿では雪国の暮らしを安全快適に保つための雪寒対策事業が、どのように進められているのか、そのあらましについて紹介する。
豪雪や厳しい寒さから道路を守る |
雪寒事業は、昭和31年に制定された「積雪寒冷特別地域における道路交通の確保に関する特別措置法」(雪寒法)に基づいて行われている。
積雪寒冷地とは2月の積雪深の最大値が累年平均50cm以上で、1月の平均気温が累年平均0℃以下の地域を指す。
この地域において国の定める交通量の基準に適合し、道路交通の確保が特に必要と認められた「指定道路」で、除雪や凍害防止を行う場合、国がその費用の2/3、防雪や凍雪防止の場合には6/10をそれぞれ補助する。
雪寒事業は、安全で快適な冬期歩行空間の確保のために、道路の除雪、雪崩・地吹雪対策のための防雪、消融雪施設の設置、凍雪害防止、除雪機械の整備、道路気象情報の提供などを行う。
雪寒事業の体系
出典:国土交通省(平成30年12月) |
積雪寒冷地域
出典:国土交通省(平成30年) |
建設機械や施設の整備による除雪や防雪などを行う |
道路利用者が安全で快適に道路を利用できるように国ではさまざまな雪寒対策を実施している。
除雪事業
道路の除雪、拡幅除雪、運搬排雪、凍結抑制剤散布、歩道除雪、雪庇処理などにより冬期交通を確保する。
一般除雪(新雪除雪) |
一般除雪(道路の平坦化) |
拡幅除雪(道路を広げる) |
運搬除雪(道路を広げる) |
凍結抑制剤散布 |
歩道の除雪 |
出典:国土交通省 山形河川国道事務所 |
防雪事業
雪崩対策として、雪庇(雪をかぶった屋根や山頂などに風が一方的に吹き付け、その風下方向にできる雪の塊)が道路側に崩れる前に行う雪庇処理。
トンネルやスノーシェッド(雪崩から道路を守るために造られたトンネルに似た建造物)の中にできたつらら処理。
設置後30年以上経過しているものもある消融雪施設(消雪パイプ・ロードヒーティング等)やスノーシェッドの維持管理、チェーン着脱場や除雪ステーションの整備などの防雪事業を行っている。
雪庇処理(雪崩防止) |
雪庇処理(落雪防止) |
出典:国土交通省 山形河川国道事務所
凍雪害防止事業
凍上、融雪による路盤破壊のおそれがある箇所では、路盤改良を実施している。また、積雪により交通に支障を及ぼすおそれがある箇所について、流雪溝の整備、堆雪幅の確保などにより安全な道路交通を確保している。
流雪溝 |
出典:国土交通省(平成24年)
これからの課題 |
国土交通省では、突発的な大雪に対する道路交通への障害を減らすための具体的な対策など今後取り組むべき課題を検討するため、「冬期道路交通確保対策検討委員会」を設置し、平成30年5月に中間報告をまとめた。
集中的な大雪が起こった場合これまでは「通行止めをできるだけしない」だったが、これからは道路ネットワーク全体として大規模滞留の抑制と通行止め時間の最小化を図る「道路ネットワーク機能への影響を最小化」への転換が提言されている。
また、大雪時の道路交通確保に向けた道路管理者等の新たなソフト対応としては、
・タイムライン(段階的な行動計画)の作成
・除雪体制の強化
・除雪作業を担う地域建設業の確保
・除雪作業への協力体制の構築
・チェーン等の装着の徹底
・集中的な大雪時の需要抑制
・集中的な大雪時の予防的な通行規制・集中除雪の実施
・立ち往生車両が発生した場合の迅速な対応
などがポイントとして挙げられている。
雪に関する表現と主な取り組みの対応範囲(イメージ)
出典:国土交通省(平成30年) |
新しい技術を積極的に活用する |
集中的な降雪時に対応し道路交通を確保するために、新しい技術を積極的に活用することも検討されている。その主なものは
〇AIを活用した交通障害の自動検知・予測システムの開発
〇気象予測技術の向上
〇車載センサーを活用した迅速な状況把握等
〇準天頂衛星を活用した除雪車の自動運転化
〇大雪時に自動車の速度を自動的に抑制する技術
〇地域状況に応じた除排雪手法や局所的な融雪対策
〇新技術の公募・評価
〇低コストで効果の高い技術の開発促進
〇新技術に対応した除雪の契約方法や仕様・基準の検討 など
北海道で除雪自動運転の実証実験 |
北海道では除雪車を運転する熟練したオペレーターの高齢化により、冬期間に除雪を行う人手が不足している。また大雪のために、地域の要である国道の冬期間の通行止め件数も増え続けている。
少ない人手で増え続ける冬期間の国道の除雪を安全確実に行うためには、除雪車の省力化が課題だ。
北海道開発局では、こうした現況を踏まえて、平成29年から、一般国道334号(延長24キロ)の知床岬で新型ロータリー除雪車により自動運転の実証実験に取り組んでいる。
平成30年度から準天頂衛星「みちびき」のデータなども活用しながら実験を行っている。平成31年3月から4月にかけては、投雪装置の自動化に向け、実際のオペレーターにより投雪装置の操作実績を調査した。実験内容は「制御システムの状態把握」「みちびきの受信調査」「作業装置の状態把握」「みちびきの受信状況把握」「作業装置の状況把握」「各種機器によるデータ収集」など。
令和元年は、前年度の実験結果を踏まえながらシュート投雪の自動化の実験を行った。シュート投雪は、投雪方向を案内する装置。雪を投げる角度や方向を調整できるため、より正確な投雪が可能になる。シュート投雪の自動化を行うことで、ワンマン化がより大きく前進できる。
令和2年以降は、現在実験が行われている一般国道334号(延長24キロ)の知床峠以外の一般道での実証実験も予定されている。
実験で得られたデータを活用することで人手不足や異常気象に悩まされている全国の豪雪地帯が厳しい冬を乗り越えていくことができる。新技術を駆使した雪寒事業に今後も期待したい。
知床峠実証実験に向けたスケジュール(案)
出典:国土交通省(令和元年) |
(2020年1月時点)