大阪府では、開催まで2 年に迫った2025 年の大阪・関西万博のインパクトを最大限に活かし、さらなる大阪の成長・飛躍に向けた土台づくりを進めており、その取組みの一つとして、南海トラフ巨大地震への備えや頻発する集中豪雨への対応など、災害対応力の強化に重点的に取組んでいる。
大阪府 政策企画部 企画室推進課 推進グループ
はじめに |
大阪府では、国が平成25 年に施行した「強くしなやかな国民生活の実現を図るための防災・減災等に資する国土強靱化基本法」に基づき、「大阪府強靱化地域計画」を平成28 年3月に策定した。策定にあたっては、大都市としての多様な機能が、自然災害に対して「強さ」と「しなやかさ」を併せ持った地域・社会づくりを進めることや、日本の成長をけん引する東西二極の一極として世界で存在感を発揮する都市をめざし、府の内外から信頼される安全・安心の確保に努めることを、念頭に置いている。また、大阪府が設置した「南海トラフ地震対応強化策検討委員会」での提言や、平成30 年に発生した大阪府北部地震、台風第21号などの災害の教訓等を踏まえ、令和2 年3月に、出勤・帰宅困難者への対応強化や、災害時の電力確保を追加等、計画の改訂を行った。
本稿では、「大阪府強靱化地域計画」(令和2 年3月)で示した大阪府の地域特性や国土強靱化地域計画に関わる基本的な考え方等について紹介する。
大阪府の地勢 |
大阪府の地勢は、西は大阪湾に面し、北は北摂山地、東から南にかけ生駒・金剛山地・和泉山脈に囲まれ、西に開いた盆地状の地形をなしている。中央部に位置する大阪平野を、淀川、大和川の2 本の一級河川が東西に流れ、淀川以北には山地、丘陵地が、淀川と大和川に挟まれた中央部には、南北に伸びる上町台地(中位段丘面)を挟んで東西に沖積低地が発達し、大和川以南の南部域には丘陵地・台地が分布する。府に影響を及ぼす主な地震として、南海トラフ沿いに概ね100 年から150 年の間隔で発生する地震や豊中市から大阪市を経て岸和田市に至る上町断層帯、北摂山地に沿って東西に延びる有馬―高槻断層帯、生駒山地の西麓に南北に延びる生駒断層帯による地震がある。国の地震調査研究推進本部は、南海トラフ沿いに発生する地震が、今後 30 年以内に発生する確率を70%~80%としている。また、上町断層帯による地震が、今後30 年以内に発生する確率を2%~3%としている。
府内には、大阪市、堺市、門真市、寝屋川市、守口市等7市に1,885ha の「地震時等に著しく危険な密集市街地」が存在する。また、主に、淀川河口両岸から上町台地西方の沖積低地には、標高が大阪湾の朔望平均満潮位以下の“ ゼロメートル地帯” が約 4 千ha 存在し、さらに、大阪市内には、大阪駅をはじめとする駅周辺に約24ha の広大な地下街が存在する。
このような防災上の課題を抱える地域に、関西都市圏の中核として、約884 万人の夜間人口と、約922 万人の昼間人口を有し、産業では、ライフサイエンスやエネルギー関連を強みとして様々な分野がバランスよく集積している。
災害の歴史 |
地震・津波については、古くは宝永4 年(1707 年)の宝永地震、安政元年(1854 年)の安政南海地震などが、現代では平成 7年(1995 年)に発生した 阪神・淡路大震災、平成30 年(2018年)の大阪府北部地震などが挙げられる。特に阪神・淡路大震災においては、死者6,434 名(うち大阪府内31 名)、行方不明者3 名、負傷者 43,792 名に達し、都市施設やライフラインなどに甚大な被害を与えた。
台風については、古くは昭和9 年(1934 年)の室戸台風、昭和25 年(1950 年)のジェーン台風、昭和36 年(1961 年)の第 2室戸台風、近年では平成30 年(2018 年)の台風第21 号などが挙げられる。特に台風第 21号においては、泉州地域などに大きな被害を及ぼした。暴風は関西空港で最大瞬間風速 58.1メートル、最大風速 46.5メートルを、熊取で最大瞬間風速 51.2 メートル、最大風速26.8 メートルを観測し、観測史上1位の記録を更新した。潮位は大阪検潮所(大阪市港区)で329 センチメートルを観測し、過去の最高潮位を超える値を観測した。豪雨については、昭和32 年(1957 年)の東大阪水害、昭和42 年(1967 年)の北摂豪雨、昭和57 年(1982 年)の昭和 57 年災害などがある。
大阪府の対応 |
大阪府では、東日本大震災を貴重な教訓とした新たな知見等に基づき、府が算定した南海トラフ巨大地震の被害想定を踏まえて、平成26 年3 月に「大阪府地域防災計画」の修正を行い、新たな対策強化の方向性を打ち出した。さらに、平成27 年3 月には、「新・大阪府地震防災アクションプラン」(以下「新・地震防災AP」という)を策定し、着実に対策を推進している。その後、平成28 年熊本地震、平成30 年大阪府北部地震・台風第21 号、令和元年台風第15号・19 号などの災害の教訓等を踏まえ、大阪府地域防災計画や新・地震防災APをはじめ防災に関連する計画を改訂している。
とりわけ平成30 年度には、大阪府防災会議の下に有識者からなる南海トラフ地震対応強化策検討委員会を設置し、行政の初動体制、出勤及び帰宅困難者への対応、訪日外国人等への対応、自助・共助などの行政対応を中心とした項目において、いかに早く日常の活動を復旧させるかといった視点で検討を重ね、平成31 年1月に提言がまとめられた。
また、「人命を守ることを最優先とする」を基本的な理念として、「逃げる」「凌ぐ」「防ぐ」各施策を総合的・効果的に組み合わせた治水対策に取組んでいる。また、土砂災害についても、人命を守ることを基本理念として、土砂災害防止法に基づいた区域指定を最優先としたリスクの開示と共有を基軸に、市町村や地域住民等と緊密に連携して、ソフト対策と、ハード対策を効果的・効率的に組み合わせた対策を推進している。
大阪府地域防災計画等防災関連計画の主な改訂状況
大阪府が取組む意義 |
1.副首都・大阪
これまで、わが国では、効率性を優先し、社会的経済的機能を都市部に集積させてきたため、大都市で災害が発生した際には、混乱や被害が深刻な状況に陥ると懸念されている。なかでも、大阪府は沖積低地が広がる地形、残存する密集市街地、広大な地下空間を有していることに加え、都市インフラの老朽化などによる脆弱性を抱えていることから、その危険性が高い。例えば、南海トラフ巨大地震が発生した際には、最悪の場合大阪府内で13 万人余の死者の発生、約29兆円もの経済的被害が発生すると予測されており、わが国の社会経済全体に与える影響は甚大なものとなる。平成30 年に発生した大阪府北部地震や台風第21 号、北海道胆振地震で発生した長期ライフラインの停止は、社会経済活動に大きな影響を与えるものとなった。
災害リスクを抱えるわが国において、東京一極集中は大きなリスク要因であり、東京以外にも日本を支える拠点都市を戦略的に確立することが必要である。大阪府では、大阪市とともに、平成29 年3 月に「副首都ビジョン」を策定し、副首都・大阪が果たすべき役割として、「首都機能バックアップ」等4つの役割を位置づけ、平時にも、非常時にも、大阪・関西が日本を支える体制を整えることをめざしている。
2.大阪・関西万博
平成30 年11 月、「2025日本国際博覧会」(以下「大阪・関西万博」という。)の大阪での開催が決定した。大阪・関西万博には、約2,800 万人が来場することが予想されており、こうした方々の安全を確保し、安心して大阪・関西万博を楽しんでいただくことが必要である。このため、会場周辺等での治水対策や耐震対策、万一災害が発生した場合の避難対策等に、多言語対応も含めた取組みに万全を期す必要がある。
また、大阪・関西万博を一過性のものとせず、そのインパクトを最大限に活かし、国土強靱化に向けた取組みをさらに加速していく必要がある。
大阪府では、大阪市とともに、令和2年3月に「万博のインパクトを活かした大阪の将来に向けたビジョン」を策定し、2040 年に向けて、「世界一ワクワクする都市・大阪」の実現をめざすこととしており、これを実現するための取組みの方向性の一つとして、ICT を活用した防災・減災の技術・基盤の充実や災害弱者などへの支援体制の充実等による世界一災害に強いまちの実現を掲げている。
大阪の将来像とそれを実現するための3つの柱
大阪・関西万博のテーマである「いのち輝く未来社会のデザイン」は、SDGs が達成された社会。大阪府は、知事を本部長とする「大阪府SDGs 推進本部」を設置し、万博開催都市として、先頭に立って、SDGs の達成に貢献する「SDGs 先進都市」をめざしており、まずは、万博が開催される2025年に向けて、SDGs先進都市としての基盤を整えるため、17 ゴール全体を俯瞰しながら、ゴール3「健康と福祉」やゴール11「持続可能都市」を重点ゴールに位置付けて取組みを進める。このなかで、国土強靱化の取組みは、特に、ゴール9「インフラ、産業化、イノベーション」や、ゴール11「持続可能都市」に貢献するものである。
持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)
※ SDGs(エスディージーズ) は、2015 年9 月の国連総会で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された、持続可能な開発目標。
大阪府では、大阪市とともに、令和2年3月に「大阪スマートシティ戦略」を策定し、大阪・関西万博の開催を支える都市基盤の確立と、万博開催後の大阪のさらなる発展に向けて、府域全体で先端技術による利便性の向上を住民が実感でき、笑顔で暮らせる都市・大阪(eOSAKA)の実現をめざしている。戦略において解決を図る大阪の都市課題として、激甚化する気象災害や切迫する巨大地震、高度成長期に急速に整備したインフラの老朽化、都心部における昼間人口の集中や高層多層化する都市構造をふまえた減災対策などについても、先端技術を積極的に取り入れて対応策を講じていくこととしている。
3.大阪府が国土強靱化に取組む意義
こうした状況を踏まえ、大都市大阪が、我が国全体の社会経済に与える影響を十分に考慮し、災害に対する「強さ」と「しなやかさ」を併せ持った社会づくりを考えていく必要がある。仮に、大規模な災害に見舞われた場合であっても、我が国の成長をけん引する大都市としての機能を、可能な限り維持、あるいは早期に回復するため、どういった備えが必要か、様々な角度であらかじめ検討することが求められている。
このため、大阪府では、いかなる事態が発生しても人命を守るとともに、都市・社会が機能不全に陥らない経済社会のシステムを確保する観点から、起きてはならない最悪の事態の想定を行った。これらの事態を確実に回避するため、既存の地震・津波対策や風水害対策を総点検し、これらの対策に関連する計画(以下「関連計画」という)を基に、必要な個別施策を検討し、体系的に整理を行った。これらを平成28 年3月に大阪府強靱化地域計画としてとりまとめた。(下図「基本的な考え方」と「計画のイメージ」を参照) また、令和2年3月に、国の基本計画の改訂や大阪府北部地震などの災害の教訓を踏まえ、大阪府強靱化地域計画の改訂(以下「本計画」という)を行った。(下図「主な見直し内容」を参照)今後も、国の基本計画の改訂、策定後に発生した災害の教訓や社会経済情勢の変化等を踏まえ、適宜改訂を行うこととする。
大阪府では、本計画を踏まえ、各部局において関連計画に基づいて、個別の取組みを進めることで、府域の強靱化を図ることとしている。