2018.08.09

Vol.2  株式会社 建設技術研究所

 

ダムから河川へと業務を拡大してきた御三家
わが国初の建設コンサルタント        


 

 

     

 

 

 

建設コンサルタントのシリーズで、最初に紹介するのは建設技術研究所である。業界の御三家の一角で、しかもわが国初の建設コンサルタントである。ダムを皮切りにそのノウハウを活かして河川に進出、さらに道路などへ事業分野を拡大し、総合建設コンサルタントへと成長を続けてきた。

 

まずは、その足跡を振り返って見よう。発足は終戦直後の1945年8月。財団法人建設技術研究所としてスタートした。2年後の1947年には日本軽金属から佐野川柿元ダムの業務を受注。さらに翌48年に神奈川県土木部から中津川発電計画、岐阜県農地部から可児川小渕ダムの業務を受注して、わが国での建設コンサルタントの先駆けとなった。

 

1950年からは朝鮮戦争の特需によって建設コンサルタントの業務が急増し、同社では水力発電とこれに伴うダム建設を手掛けてきた。日本が高度成長期に入り、電力需要が急増したことなどが背景にある。

 

1951年には当時の建設省関東地方建設局発注の栃木県の五十里ダムのコンクリート冷却調査や高堰堤コンクリート調査を受注。堤高が100mを超えるダム建設での技術的課題に取り組んだものであり、ここでの成果はコンクリートダムの施工指針として活用されることになった。

 

 

 

   河川部門では「水の技研」として業界トップに

 

ダムでの技術的蓄積やノウハウを活かして進出したのが河川部門だった。昭和30年代からは水理模型実験に本格的に取り組み、ダムや河川分野で「水の技研」としての評価が定着するようになった。

 

1963年には建設技研株式会社を設立し、1964年には株式会社建設技術研究所へと名称を変更。翌年には、本格的な治水計画の第一号となる業務を関東地方建設局から受注したのを皮切りに、東北地方建設局や中部地方建設局へと広がっていった。1970年には河川計画部門の受注高で業界トップとなっている。

 

河川計画では、貯留関数による流出計算や不等流・不定流などによる水理計算などが必要になる。これらを計算機で行うためのプログラムを社内で開発して、多くの一級水系の治水計画で活用するようになっていった。

 

一方で、高度成長期には、道路などの社会資本整備が活発になり、これらの分野にも進出。業務の対象を拡大して、御三家の一角に名を連ねる総合建設コンサルタントへと成長を続けてきたのである。

 

 

砂防水理模型実験

 

 

 

   企画段階から維持管理まで

 

 

 

 

 

建設コンサルタントについて、多くの人は発注者に代わって設計をして積算し、発注のための図書を作成するのが主な業務と思っているかも知れない。しかし、実際には調査・計画段階から参画している。

 

発注者が建設会社に工事の発注後は施工管理も行い、完成後は点検、診断、補修設計などの維持管理を行う。一連のプロジェクトの中で担当しないのが施工だけなのが建設コンサルタントの業務なのである。

 

 

 

 

 

事業分野は拡大する一方であり、同社が建設コンサルタント登録しているのは21部門にも上る。

 

 

ダム再開発(放流設備の増設)

PFI・PPP事業の例

 

 

 

これらを統括する事業部門は、2017年までは流域・国土事業、交通・都市事業、環境・社会事業の3部門だった。さらに、2018年4月からは建設マネジメント事業部門を設立して4事業部門となっている。

 

加えて1999年には海外での事業を本格展開するため建設技研インターナショナルを設立、2015年には環境総合リサーチ、日総建の関連会社が相次いで営業を開始し、2017年には建築やマネジメント業務に力を入れるため、英国のWaterman Group Plcを傘下に入れた。これまで培ってきた強みを活かしながら、様々な分野についてもテコ入れを図っていく計画が背景にはある。

 

2015年には、2025年を目標にした「CLAVIS 2025」と呼ぶ中長期ビジョンを策定している。インフラ整備に対する期待が変化していく中で、一層の社会貢献を果たすためにグループ企業全体の進路を示したものである。

 

目指す方向は3点。より幅広い分野で「つくる」から「つかう」までを含めたマルチインフラ企業にする。わが国を代表する建設コンサルタントとしてアジアのみならず世界に技術サービスを展開するグローバル企業へ、そして技術者と蓄積してきた技術を資源として成長し続けるアクティブ企業にしていくことである。

 

マルチインフラ企業への展開では、従来の4部門からなるコア分野に加えて、新分野、未参入分野、新業種などに事業範囲を拡げる。インフラの整備や運営のほか、将来的にはインフラの評価・監査なども視野に入れている。

 

 

 

   社会のニーズを先取りする

 

ビジョンの達成に向けて取り組んでいるものの一つが研究開発への投資である。技術力で勝負する建設コンサルタントとして、社会のニーズを先取りした新たな事業分野の獲得や国際社会での役割の拡大などを推進していく。

 

 

防災情報システムの例

 

 

 

国内を問わず、地震や台風、火山などの自然災害が多発して、しかも頻発化する傾向にある。地球温暖化が原因になっているとの指摘もあるが、これらから守る防災や減災対策。老朽化している社会資本の維持管理対策も喫緊の課題になってきている。

 

これらを確実に実施していくためAIやICTなどの新技術の活用が求められている。国内の新規建設需要が減少していくなかで、企業として成長していくためには海外へのインフラ輸出も欠かせない。

 

その要となるのが技術であり、支えるのは人材である。将来に向けて人材育成、技術開発、事業開発、海外展開への投資を実施している。

 

 

 

 

 

人材については、建設コンサルタントの最大の経営資源は、「人」であるとして投資の最優先課題にしてきた。研修や技術研修会のほか、技術者が自らの課題を設定して海外へ行く研修制度も設けている。

 

働き方改革にも取り組んできた。時間単位での年次有給休暇の取得を可能とした時間単位年休や在宅勤務制度などの制度を改正。社員がメリハリのある仕事ができる環境を整えることで労働生産性の向上や長時間労働の解消を目指している。

 

技術開発については、大学などとの共同研究にくわえて独自の活動によって高度専門技術の開発を推進。成果をもとにして、新技術に加えてインフラの老朽化、エネルギー問題など顕在化してきた社会的課題への解決策を提案している。

 

事業開発では、従来の枠にとらわれることなく、太陽光発電、水害の予測情報サービス、新たに立ち上げる事業者向けの農業コンサルティングといった分野にも進出。

 

海外展開については、日本の保有する技術に関心の高いアジア、アフリカを中心に海外拠点を整備して培ってきた技術をもとにして提案。さらにロンドンを拠点とするエンジニアリング・コンサルタント会社をグループの傘下として、より幅広い地域でのインフラのサービスを展開している。

 

企業活動は様々なステークホルダーに影響を与えているため、ステークホルダーに対する責任(CSR)を果たす必要がある。

 

同社は、1945年の財団法人創立以来、時代に応じた社会的課題に対して、技術で貢献してきた歴史がある。こうした建設コンサルタントとしてのメインの事業以外にも、技術を用いた社会貢献活動を行っている。

 

例えば茨城県にある水理模型実験施設を利用して地元の小学校の課外授業を実施している。また、埼玉県内の高校の校外学習プログラムでは、社員が講師として河原での現地学習から指導し、その成果は同県の教育委員会主催の高校生によるサイエンスフェアの発表会で披露されるという結果にもつながっている。

 

 

鬼怒川での実習の様子

河川模型での実験の様子

 

 

 

   維持管理で自治体への企画提案も

 

国内では、インフラへの投資が新規事業から既存の施設の維持管理、長寿命化策へとシフトし、国でもインフラ長寿命化基本計画を策定して各管理者へ実施を求めている。

 

同社でもインフラマネジメントの事業展開に積極的に取り組んできており、自治体に対する企画提案も行っている。

 

 

CM業務における事業者との協議

事業者との現地確認

 

 

 

維持管理に関する技術として、例えば既設構造物の形状を高精度で計測できる3Dレーザースキャナの活用や、近接目視を点検員に代わってできる点検ロボットの開発などを行っている。

 

同時に市町村の人材や技術力不足を補うために点検・診断から補修・修繕までを一貫して民間事業者へ委託する包括的民間委託への動向に対応する体制も整備してきた。

 

すでに具体的な事例としては埼玉県行田市および地元の建設会社と道路の維持管理についての基本協定を締結。点検から補修までの一連のサイクルをトータルで実施するのは県内で初の事例ともなっている。

 

総合建設コンサルタントの代表的な企業として事業の範囲は拡大する一方といえよう。

 

                                 (2018年8月時点)