2018.08.29
復興から高度成長期へ
わが国のインフラ整備の歩みと軌を一に
戦後まもなく創業し、事業分野の拡大を続けながらわが国を代表する総合建設コンサルタントとなったのが、パシフィックコンサルタンツである。
戦後の日本にとって喫緊課題であった発電や水資源開発などのエネルギー開発分野からスタートし、高度成長期にかけて増大していったインフラ整備全般に事業分野を広げてきた。
その足跡はわが国のインフラ整備と軌を一にするともいえる。
トンネル、道路部門で業界トップ |
創業は、1951年。米国法人として始まった。日米の技術者が集まり、日本の復興に向けて電源開発が最優先であるとの信念をもって、日本政府および連合国最高司令官総司令部を説得し、1949年に自らの費用で只見川電源開発調査を実施した。
奥只見川調査に携わった技術者たち |
メンバーは、米国のコンサルタント E.フロアー、建築家のA.レーモンド、日本からは平山復二郎、白石多士良、白石宗城、河野康雄ら、わが国の名だたる技術者であった。
このときの経験は、日本においても欧米流のコンサルティング・エンジニアの仕組みが必要との思いをさらに強くさせ、1951年9月、米国法人パシフィックコンサルタンツ・インコーポレイテッドが設立された。
本社は米国シカゴ、東京に支社が設けられ、E.フロア、A.レーモンド、白石宗城の3名が共同出資した。
パシフィックコンサルタンツ・インコーポレーテッドは、米国施設の設計業務や愛知用水事業への世界銀行からの借款業務を通じて、欧米流のコンサルタントのあり方を学んだ。
3年後の1954年、米国法人の名前と業務を引き継ぎ、日本法人パシフィックコンサルタンツ株式会社が誕生し、初代社長には平山復二郎が就いた。
1960年代からは全国各地に出張所を開設して活動の範囲を拡大してきた。同時に強みを発揮したのが、前回の1964年東京オリンピックに向けて整備された東海道新幹線や東名高速道路、首都高速道路などの交通インフラだった。
その後も急速に整備されてきた交通インフラを相次いで手掛け、現在も道路とトンネル部門の売り上げは業界トップであり、「この分野は他社には譲れない」という。
技術開発の積極投資 |
現在は首都圏オフィスのほか、北海道から沖縄まで各ブロックに支社があり、さらに各地に事務所を設置しており、全国各地をカバーする。
中国、インドネシア、シンガポールには海外拠点もある。社員約1,800人、売上高は約500億円に達する業界御三家の一員である。
建設コンサルタント登録をしているのは、20部門あり、ほぼ全域を網羅。同社では、国土保全、交通部門など12の分野に事業分けをして活動を展開している。
大きな流れとして、社会資本整備の新規から維持管理への移行があり、同社もこれに合わせてシフトしてきた。さらに現在、力を入れているのが、自然災害が多発するわが国の現状を踏まえた通信ネットワークと連動した防災インフラ、ビッグデータを活用した社会インフラ、地方都市が取り組むスマートシティに対応するスマートインフラなどである。
従来からの基幹部門をより成長させていくと同時に、蓄積してきた技術などを活かして新たな分野にも取り組んでいく成長戦略である。
このために各分野とも重点的に取り組んでいるのが技術開発である。「投資額は業界でもトップクラスではないか」という。2018年6月現在で約70件の技術開発が進行中である。
異業種ともタッグを組む |
防災関連では、すでに実用化している技術もある。どしゃブル「命を守る土砂災害危険情報サービス」と呼ぶシステムである。
土砂災害危険度判定の手法 |
総合的な土砂災害危険度判定法に加えて、アラート通知で避難行動を支援するスマホ用のアプリを開発した。
発生を予知すると、スマホに「設定の地区は土砂災害発生の危険が高まっています。避難して下さい」とのメッセージが表示される。
2016年の土砂災害では、発生時刻の1時間から2時間前に判定することができた。
さらに同じ年の関東・東北豪雨でも栃木県内の土砂災害発生箇所と危険度判定エリアがほぼ一致した。2017年の九州北部豪雨でも同様に判定でき、有効性を示す実績を蓄積している。
洪水については、浸水想定解析と簡易水位計の統合による浸水危険箇所想定システムも開発している。水位センサ、カメラ、通信機器、電源となるソーラーパネルで構成する運搬や設置が容易な簡易水位計による河川水位の計測データをリアルタイムで伝送。危険箇所の水位と画像をもとに解析して浸水の想定範囲についての情報を提供する。
自然災害の発生を予測することはできず、ハードにも限界がある。人的被害を防ぐためには、より早い情報の提供が欠かせない。この実情に対応した技術だと言える。
河川関連では、高精度のリアルタイム流量データをもとにして次世代の河川管理や危機管理の基礎データを提供する河川流量リアルタイムモニタリングシステムも開発した。電波流速計を用いた新たな流速計測技術とDIEX(外力的内外挿法)と呼ぶ解析手法を融合させた。
高精度の自動計測を可能とし、現地での作業コストが大幅に削減されることになった。点や線の計測データは、DIEXによって面データにすることができる。高精度で確実かつ安定しているなど複数の特徴を兼ね備え、多くの河川流量観測高度化検討業務などで活用されている。
技術開発では、関連技術を所有する企業や異業種との提携にも積極的に取り組んできている。
2017年12月には、ソフトバンクと業務提携をした。互いの強みを活かして第5世代移動通信システム(5G)であるIoTなどから取得したデータを組み合わせてAI(人工知能)で分析し、公共インフラの管理などにするスマートインフラソリューションを共同開発していく。
テーマは2つ。同社が現在力を入れている防災インフラと社会インフラに関連するものである。防災インフラについては、5Gなどによって災害監視を行い、データに基づいた情報提供や予測解析の実証実験をする。これによってタイムリーな情報提供や適格な避難誘導が可能になり、河川の氾濫や土砂崩れなど災害から人命を守ることができる。
一方の社会インフラは、5GやAIを活用した人、交通の流れを解析することによって、変わりゆく流れを実情に近い状態でシミュレートする。
タイムリーな情報提供により、人や交通の流れを誘導して交差点や駅の混雑、交通渋滞といった課題を解消し、生活の質、都市サービスの効率の向上をめざす。災害時の避難にも活用できる。
既設構造物の点検や維持管理関連では、わが国初の試みである高速走行型非接触レーダーによるトンネル覆工の内部点検技術と統合型診断システムを開発した。
覆工コンクリートの内部や背面には、うき、空洞などの欠陥ができることが少なくない。従来は打音検査で確認してきたが、交通規制を伴う。
これに対して新たに開発した内部欠損探査用レーダーを搭載した車両を時速50kmで走らせながら計測する。3基の非接触アンテナによって、世界で初めて3m程度の離隔での探査を可能にした。
内部欠陥探査用レーダー |
車両には高密度レーザーやビデオカメラも搭載。レーザー計測による3次元位置情報と同期して、同時に開発した3次元可視化技術(統合型評価診断システム)によって、変状の規模や原因、健全度を総合的に診断するシステムである。画像とレーザー、レーダーを組み合わせた健全度診断はわが国初である。
統合型評価診断システム |
環境面でも、わが国初となる分析技術を2018年8月に開発したと発表している。「モバイル環境DNA分析システム」である。
ゴーフォトンおよび兵庫県立大学と共同で、日本板硝子が開発した携帯可能な小型のPCRと呼ぶDNAの特定部分だけを増幅できる装置を用いて、現地において約30分で環境DNAの分析を可能にした。
河川や湖沼の水に含まれる生物の皮膚や死骸、粘液などの環境DNAがその場で分かる。
これまでは、採取した水を研究室に持ち帰って分析していたが、DNAは時間とともに分解が進む。現場でしかも短時間で分析できることによって検査精度が大幅に向上するものと期待されている。
漁業被害をもたらす外来種や危険生物、生息状況の把握が難しい絶滅危惧種の検出に利用できるよう開発を重ねていく方針である。
コンサルの強みを活かす包括民間委託 |
同社が大きな動きとみているのが、自治体による包括民間委託である。施設の維持管理や簡易な補修といった業務を一括して民間事業者に委託するものだ。
インフラや公共施設の大きな課題がある。1つが急速に進む老朽化である。もう1つが人材不足であり、規模の小さな自治体ほど深刻になっている。技術者がいないという自治体も少なくない。
包括民間委託では、複数年契約にすることで、小分けして発注する必要がなくなり、自治体にとっては業務の削減にもつながる。民間事業者にとっても新たな市場となる。
特に建設コンサルタントは、企画から調査設計、維持管理計画の作成まで施工を除く一連の業務を担当している。インフラや公共施設に精通しており、その強みを活かすことができる。
技術を磨き事業分野を拡大し、成長し続けてきたパシフィックコンサルタンツ。「プロフェッショナルコンサルタントとしての資質を磨き上げ、先進的な総合ソリューションにより、新しい価値を社会に提供し続ける」を経営理念とし、「Producing The Future」をキャッチフレーズに掲げる。
今後、どのような技術を開発し、海外を含めて事業展開をしていくのか。動向が注目される。
(2018年8月時点)