2018.10.08
本四架橋を支えた有志が集結して結成
総合建設コンサルタントの多くが事業分野の拡大に取り組んできている。創業から半世紀を迎えた長大も例外ではない。
ユニークともいえる社名は、その生い立ちに由来がある。インフラ整備を基盤としながら培ってきた技術とノウハウを生かし、あらゆる生活基盤を提供できる企業へと変貌を遂げている。
長大橋の技術者集団からいち早く総合化へ |
長大は1968年に設立された。当時の社名は「長大橋設計センタ」だった。
ルーツは1962年に結成された「長大橋設計室」にある。当時の東京大学工学部の平井敦教授を中心に全国の各企業や研究機関から専門技術者が結集して、長大橋の架設について可能性を探るのが目的だった。
5年掛かりで本州四国連絡橋技術調査報告書を作成し、これをもとに土木学会では、1967年に本州と四国を結ぶ、どのルートも架橋は可能と発表した。本四架橋の神戸~鳴門、児島~坂出、尾道~今治の3ルートである。
明石海峡大橋 |
設計室は解散され、本四架橋の基本計画をまとめるプロジェクトは終了したが、「互いに力を合わせて培ってきた長大橋についての技術者集団としての組織力を発揮できる道はないのか」と設計室13人の有志で設立したのが長大橋設計センタだったのである。
1970年に本四架橋を建設運営する本州四国連絡橋公団が設立され、この年に当時Dルートとも呼ばれていた児島~坂出間18㎞の設計業務を受注した。さらに、神戸~鳴門、尾道~今治の各ルートの長大橋のプロジェクトに参画していくことになる。
これら国内での実績は海外でも評価され、東南アジア諸国のほか、南米やヨーロッパ、アフリカなど世界各国のビッグプロジェクトも手掛けてきている。
日本のODA(政府開発援助)によって建設されたカンボジアのネアックルン橋(正式名:つばさ橋)は、同国発展のシンボルともなり、紙幣にも姿が描かれている。
ネアックルン橋 |
ネアックルン橋が描かれたカンボジア紙幣
(拡大版)
また、アジアとヨーロッパを隔てるボスポラス海峡を跨ぐ吊り橋と斜張橋の構造形式を組み合わせた第3ボスポラス橋の建設に参画するなど本四架橋だけでなく、各地のランドマークになる長大橋の建設に携わってきている。
第3ボスポラス橋 写真提供:ICA |
国内では、本四架橋をピークとして長大橋の建設は減少し、新分野への進出が求められていた。こうした市場への対応は迅速だった。
1971年には、環境アセスメント分野の事業に進出。いち早く科学技術専用の大型コンピューターも導入した。
海外へ進出したのも1975年だった。国内で蓄積した技術力を生かす舞台は海外であるとの思いが、多くの海外プロジェクトへの参画に結びついた。
1980年代に入ると、都市計画や道路分野、さらには1級建築士事務所の資格も取得するなど業務分野の拡大を続け、1984年には社名を「長大」に変更した。
長大橋から脱却して多角化への舵を切りかえることへの狼煙でもあった。
筑波研究学園都市には、総合研究所を開設した。
1990年代にはIT化やグローバル化に対応するために東京証券取引所に上場したほか、品質と環境のマネジメントシステム(ISO9001、ISO14001)の認証を取得。2000年代には、PPP/PFIといった公共事業での新たな分野に参入。2010年に入ると多角化はさらに多様性を増し、海外に現地法人を設立した。
3本柱を軸に多角化を推進する |
これらは半世紀の歴史の一端に過ぎないが、わが国が直面するようになってきた人口減少や少子高齢化、グローバリゼーションの進展、巨大災害への対応、社会資本の老朽化などについてインフラ整備の側面から支えてきた。その経験やノウハウがさらなる事業領域の拡大に結びついてきた。事業推進戦略の基本としているのは、国土基盤整備・保全、環境・新エネルギー、地域創生の3本柱である。
長大の事業領域 |
基本としているのは、建設コンサルタントとしての基盤である国土基盤整備・保全と呼んでいる既存の土木技術を軸とした構造物の計画から設計や監理分野。しかし、公共事業の伸び悩みに伴って、かつてのような大きな伸びは期待できない。多くの総合建設コンサルタント会社が抱える現状である。
そこで、取り組んできたのが既存の技術を生かした水平展開である。環境・新エネルギーでは橋梁や道路事業で培ってきたノウハウを活かして小水力発電やバイオマス発電などの新たな電源開発に加えて主に海外を対象にして上水供給などの水に関するインフラといった事業を推進。地域創生では、衰退傾向にある地方の創生に対して、提案から企画、事業化に向けた支援活動を展開している。
個別の事業に着目すると、建設コンサルタントの業務とはかけ離れたもののように見えるものもある。しかし、いずれもが従来の事業の延長線上にあり、蓄積してきたノウハウがあったからこそ実現を可能にしてきた。
道路などのインフラは新設から維持管理への時代を迎えている。
例えば橋梁では、2020年の東京オリンピックに向けた東京都道の耐震補強化の一環として中央区の墨田川に架かる中央大橋の耐震補強設計を担当した。平面曲線を描く斜張橋で、見た目には優美だが、大地震時の挙動は複雑になる。そこで、コンクリートの耐力調査に加えて、非線形動的解析やFEM(有限要素法)解析など長年の橋梁事業で培った高度な解析技術を用いて、大規模地震にも耐えられる耐震補強設計とした。
中央大橋 |
交通関連では、PDCAのマネジメントサイクルを用いた安全対策から効果の評価、改善策の立案までを担当した事例もある。
また、信号機が必要ないラウンドアバウトと呼ぶ交差点も提案し、すでに完成している。東日本大震災で停電となり、信号機が作動しなくなり大渋滞となった。こうした教訓を反映して着目されるようになったもので、多方向から接続する道路の中心にはロータリーがあり、ここを一定方向に通行することで目的の道路へと向かう。低コストで災害にも強い交差点として採用する事例が全国的にも増加している。
ラウンドアバウト(飯田市) |
道路の維持管理では、点検結果や補修などの管理データを一元管理するシステム、日常の巡回業務や災害時の情報収集に携帯端末を活用した巡回支援システムも開発している。
建設事業は、少なからず自然環境に影響を与えることは避けられない。影響の度合いを把握する調査に加えて、事業が与える騒音や大気汚染など複雑な現象への対策検討に不可欠なGISなどの技術を用いた環境影響評価システムも開発している。
建設廃材にも着目した。土木構造物の施工に不可欠の型枠は従来、コンパネと呼ぶ合板を採用することが多く、使用後は廃棄されていた。そこで合成樹脂の基盤材に合成樹脂フィルムを貼り、工事終了後には回収してリユースが可能な型枠も製品化している。
型枠リユースシステム |
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海外進出で着目したものの一つが東南アジアの電力需要の増大だった。継続的な人口増加や所得水準の向上に伴う電力不足が深刻化していたのである。再生可能エネルギーの中でも安定的な供給が可能な水力の導入を提案した。建設や設備投資が比較的容易な小水力発電システムであり、計画から運営、維持管理までの技術コンサルティング業務を展開している。
途上国における小水力発電事業 |
海外における地域貢献であり、長大が事業の3本柱としているものの一つである。
国内でも、官民が連携して公共サービスを提供するPPPや民間の資金やノウハウを活用することで公共事業やサービスを提供するPFIにも進出。地域のコミュニティの拠点となる複合施設型庁舎の提案から交通運用での技術を応用したオンデマンド型バス運行支援システムまで幅広い分野に進出している。
いずれも従来の建設コンサルタントのイメージとは異なるように見える業務内容だが、ベースとなっているのは蓄積してきた技術とノウハウ。市場は常に変化している。生き残るためにはスピード感が常に求められている。
多角化には、社内での独自の人材育成には限界もあった。そこで、新たに展開をめざす専門家集団の会社を傘下にするなどの手法によって事業領域を拡大し続け、今後もさらに加速していく方針だという。
(2018年10月時点)