2020.10.23
自社航空機を保有・運航し、ビッグデータをインフラメンテナンス、防災に活かす
アジア航測株式会社は、航空機を使った地形のレーザー測量をベースとして、環境調査や地質調査、防災計画などを得意とする建設コンサルタントだ。
道路や鉄道などの社会インフラと、砂防事業や環境アセスメントなど国土保全の、大きく2つの事業分野でコンサルティングを手掛けている。
売上高ベースで、約7割が国や地方公共団体からの公共事業、約3割が民間の鉄道や電力、通信などの公共サービスとなっている。
1964年に東証二部へ上場しており、2019年9月期の連結売上高は284億円。航空測量業界では、株式会社パスコ、国際航業株式会社に次いで、売上高3位を誇る。
アジア航測の活動領域 |
戦後復興には航空測量が必須、有志が集まり創業へ |
アジア航測創業の背景には、戦後復興のための社会的要請が大きくかかわっている。
終戦直後は航空写真用の機材は兵器とみなされ、米軍に没収された。日本の航空機は、飛行することも許されていない状況だった。自分たちの手で航空機を飛ばし、撮影することができるようになったのは、1951年にサンフランシスコ講和条約が締結されたあとになる。
元海軍航空参謀中佐と戦前、陸軍の南方航空に勤務していた写真店主の発案が、戦後復興には正確な地図を速やかに作成することが重要と考えていた政治家や航空技術者たちに伝わり、1954年にアジア航空測量(1963年に現社名に変更)を創業、32人で発足した。
最新鋭の機材を輸入して導入するために莫大な資本が必要だったが、元大臣やその秘書の尽力で、当時としては破格の5,000万円という資本金をかき集めて事業を開始した。
航空機は6機を保有し、自社で運行 |
アジア航測は現在6機の航空機を所有し、測量や撮影のために自社で運航している。
2019年5月に稼働を開始したJA81AJ 愛称:あおたか |
JA81AJ正面 |
コックピット |
JA81AJカメラホール |
JA81AJプロペラ |
自社機を運航することにこだわるのには、創業当初にチャーター機が遭難し、会社の中心人物でもある技術者2人を失うという苦い経験が教訓となっている。
安全な業務体制を確保するためには、航空機を自社で保有し、安全管理を徹底して運航するべきだと考え、以来この方針を貫いている。
自社で運航することで、機動力が最大限に発揮できるというメリットもある。後述の緊急災害撮影への出動にも役立つ結果となっている。航空機のほかに、車載センサやUAV(ドローン)なども活用し、計測方法は多岐にわたる。
1998年にレーザー計測機器を導入、近年では川底も計測可能に |
それまで地図の作成には、フィルムによるアナログの航空写真を使用していたが、レーザーで地表を計測する技術と機材が開発され、アジア航測は1998年に導入した。現在は、航空写真もデジタルカメラである。
航空レーザー計測器(Galaxy) |
デジタル航空カメラ(DMC) |
航空レーザー計測は、航空機に搭載した光波測距儀(こうはそっきょぎ)で地上に向けてレーザーを発射し、地表から戻ってくる反射光を検知するというもの。
この光が往復する時間を利用して地表までの距離を測定する仕組みだ。樹木や構造物を含む地表面や、その下の地形を高密度に計測できる。現在では、浅い水の下の地形が測れる航空レーザ測深(ALB)も保有している。
これにより、写真では測定することができなかった森林の下の地形や、川底の形状計測も可能になった。
線路と周辺設備の高密度3次元レーザー測量を開始 |
MMS(Mobile Mapping System)による道路周辺の計測はこれまでも進めてきたが、新しいサービスの一つとして、2019年7月から鉄道事業者に向けた線路周辺の測量とシステム提供のサービスを開始した。
MMSをトロ台車などに搭載して移動しながら3次元情報を収集する技術で、鉄道事業のニーズに合わせるため、約5年掛けてJR西日本と共同で開発した。
モービルマッピングシステム(MMS) |
新サービス「レイリス」3次元点群データ |
線路内立ち入り作業の時間短縮や、3次元形状データを机上で把握できるメリットがある。施設の管理業務を容易にし、事業者や旅客の安全性を向上するサービスと位置付けている。
東日本大震災では最初に到着、古くは伊勢湾台風被害を緊急撮影 |
災害発生時の緊急撮影については、航空機の自社所有、運航のメリットを生かし、常に緊急の出動に備えている。
東日本大震災の地震発生時には仙台空港も被災し、現地に駐機していた航空機は運航することができなかった。アジア航測機は調布飛行場や八尾空港から翌日朝から飛んだ。長距離飛行が可能なターボプロップ双発機を保有していたので、これがどこよりも早く被災地を撮影する結果となった。
同社初の緊急災害撮影は、1959年に紀伊半島を襲った伊勢湾台風の被害状況で、当時の最先端技術だった赤外線航空写真を撮影した。
以降、阪神・淡路大震災、広島県豪雨災害、三宅島噴火などをいち早く撮影し、復旧対策に役立てている。
緊急撮影は基本的に、国や都道府県などの要請を受けて出動するものだが、アジア航測は、近年多発している地震や水害の際、要請がなくても被災地に飛び、いち早く現地の状況を把握し、二次災害を防止するために災害直後の緊急撮影を実行している。
東日本大震災の緊急撮影 (仙台港 2011年3月13日 13:48) |
北海道胆振東部地震の緊急撮影 (富里地区南東から北東方向 2018年9月6日) |
令和元年台風第19号の緊急撮影 (千曲川五輪大橋付近 2019年10月13日) |
国土地理院も利用する赤色立体地図を開発 |
航空レーザー計測の結果をわかりやすく表現するために、アジア航測は独自に「赤色立体地図」を開発した。
赤色立体地図は傾斜が急な面が赤く、尾根は明るく、谷が暗くなるように表現される。1枚で方向依存性のない立体感が得られる独創的な地形表現方法だ。
社員の一人が考案した同社が誇る開発の一つで、2002年に特許を取得した。
オルソ画像(写真) |
航空レーザー測量成果(赤色立体地図) |
教育や研究目的での利用を中心に一部を無料で提供しており、国土地理院の地理院地図でも使える。その他にも、博物館などやNHKの情報番組ブラタモリ、最近では山城などの考古学分野でも注目され、広く利用されている。
衛星写真を使ってヤンゴンの地図を作成 |
海外事業においては、日本で培った技術を海外でも活用するため、2013年、ヤンゴンに100%子会社を開設。衛星写真を使用し、ミャンマーの旧首都、ヤンゴン全域の地図を作成した。
現在でもヤンゴンを中心にミャンマーでは高速道路や鉄道などの建設が進んでおり、アジア航測は測量を中心に事業の一端を担っている。
このほか、2017年にはモンゴルの現地企業と業務協力覚書を取り交わしており、インドネシア、台湾、中国でも現地企業との提携を始めている。
空間データの活用と、将来を見据えたエネルギー事業と森林管理 |
空間情報をセンサーで計測するということは、膨大なデータを取得し、取り扱うことになる。このビッグデータを行政機関や民間のオフィスで手軽に扱えるよう加工しなければならない。
GIS(地理情報システム)を活用し、各業務で使えるよう適切に処理して提供するが、この情報の加工や解析については、日々研究開発を重ねている。
また、近年力を入れていることの一つに、エネルギー関係の事業がある。広範囲にわたるエリア情報や詳細データを使い、今後さらに需要が高まることが予想される太陽光発電や洋上風力発電の適地を選定している。
NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の事業では、日本周辺の洋上風力発電のポテンシャルマップを作成した。実は、風力発電の可能性があるだけでは発電施設の設置条件には不十分で、海底地形の形状や海底ケーブルが敷設してあるかどうかなど、適地選定には複数の条件を一元に重ねて表現したものが必要となる。
洋上風力発電のポテンシャルマップ
(NEDO:NeoWins 洋上風況マップ http://app10.infoc.nedo.go.jp/Nedo_Webgis/top.html)
ほかにも、国の財産であり、防災上の観点からも重要な、森林の管理に目を向けている。広範囲にわたってレーザー計測したデータを解析して、木が生えている位置や本数、高さや太さを1本ずつすべて抽出する。
これまで人が山に入って調べるしかなかった樹種で区分された林相図が自社の特許技術で容易に描けるばかりか、山丸ごと樹木の材積を精密に把握することができる。さらにGISを使った情報システムを使えば、森林管理が正確で使いやすいものになる。
2019年秋は激甚災害に指定されるような大きな台風が東日本を襲い、被害が頻発することとなったが、アジア航測はいち早く被災地に飛び、緊急撮影を実施している。同時に多くの挑戦や研究、課題に取り組み、さらなる社会貢献につながる施策を進めている。
(2019年11月時点)