2023.09.01

【特集記事】阪神高速道路リニューアルプロジェクト

 

都市型高速道路の長寿命化を進める
高速道路リニューアルプロジェクト

                               阪神高速道路株式会社


 

 

 1970 年に開催された「大阪万博」に向けて道路整備が進んできた阪神高速道路は、関西都市圏の大動脈として暮らしと経済の発展を支える基幹的インフラである。開通後50 年以上が経過し、老朽化が顕在化するなか安全な高速道路を未来に保ち続けるためスタートした「阪神高速道路リニューアルプロジェクト」。都市高速道路ならではの課題も多い阪神高速道路の更新への経緯や取り組みについて紹介する。

                                                    ※資料・写真は阪神高速道路株式会社より提供

 

   関西都市圏の大動脈

 

 阪神高速道路の大きな特徴の1つは、総延長258kmのうち約8割の202kmを橋梁が占めていることだ。しかも開通からの経過年数が50 年を超える橋梁は 2023 年1月時点で約3 割に達し、10 年後の2033 年初には約5 割、20 年後の2043 年初には6割超となる見込みで経年劣化が顕著である。また、1日の交通量は約70 万台で、そのうち大型車の利用比率は一般道に比べて約6 倍も多く、荷重影響を受けやすい橋梁構造物にとって過酷な使用状況にある。

 こうした中、阪神高速道路は、日常的に定期点検を行い構造物の老朽化の的確な把握と、計画的な補修を行っている。一方で、大規模更新や大規模修繕といった更なる老朽化対策事業として2015 年より「高速道路リニューアルプロジェクト」をスタートさせた。

 

 

 

 

   大規模更新・大規模修繕

 

 2012 年11 月に設置された「阪神高速道路の長期維持管理及び更新に関する技術検討委員会」において、今後の将来を見据えた構造物更新の必要性や、更新の実施に必要な環境整備等を含め、今後の長期的な維持管理のあり方について、技術的観点からの検討が行われ、2013 年4 月に委員会提言を受けた。

これを基に、阪神高速道路は最新の損傷状況等を改めて精査し、大規模更新または大規模修繕の実施を前提とした「更新計画」を策定、2014 年度末に事業化され、2015 年度から事業を開始した。

「更新計画」策定の基準としては、繰り返し補修しても構造物の健全性を引き上げることができず、将来通行止めを伴うような致命的な損傷に進展するおそれのある構造物を抽出し、全体的な取替え(更新)が効率的・効果的な箇所には「大規模更新」を実施し、主要構造を全体的に補修・補強することで、構造物全体の造り替えに相当するレベルで機能・性能の引き上げが可能な箇所は「大規模修繕」を実施することとした。

現行リニューアルプロジェクトの実施箇所は、総延長91kmである。現在、大規模更新については対象6 箇所のうち3 箇所で工事を実施している。

大規模修繕は、約86km(2021 年3 月時点)の区間で実施中である。また2017 年以降、通行止めや車線規制を活用しながら、集中的に大規模修繕を行うリニューアル工事を年に1~2 回実施している。

 

 

  

 

 

 

 

大規模更新 主な工事事例

 

▶14号松原線の喜連瓜破付近


 供用から約40 年の喜連瓜破高架橋は、主要な交差点をまたぐため橋長が154mと長く、橋桁の中央付近にヒンジ部を設ける構造のコンクリート橋であった。経年とともに橋桁中央のヒンジ部を中心に設計時の想定以上に垂れ下がり路面が大きく沈下してしまった。垂れ下がりを解消するためケーブルによる補強にて応急対策していたが、永続性・長期耐久性を確保するため、ヒンジ部のない鋼製連続桁への架替え工事を実施する。

 

 

 

 

 

▶15号堺線の湊町付近


 大阪の中心部ミナミの繁華街を横断するこの区間は、地下に複数の鉄道の駅や地下街が上下に重なり合うように張り巡らされている。橋梁の建設において、地下街直上では杭を使用することができないため、地下構造物上に直接基礎を設置している。そのため地下構造物への負担をできる限り軽減するよう軽量な基礎構造(鋼製フーチング)が採用された。周辺環境の変化で、付近の地下水位が上昇し、内部が空洞になっている鋼製の基礎内部に地下水が流れ込み、腐食が進行していた。

 そこで基礎本体(鋼製フーチング)へ腐食対策を施すとともに、外周全面にコンクリートボックスを設置することで 耐食性の向上や地下水の浸水対策、維持管理空間を確保する。

 

 

  鋼製フーチングの内面の腐食

 

 

 

 

▶3号神戸線の湊川付近


 神戸線の湊川付近では、河川をまたぐため橋脚間の距離が長くなるという厳しい条件に加え、道路に挟まれた立地に橋脚を立てるためにコンパクトな基礎構造で、軽量な上部工であった。軽量化を目的とした断面構造を採用したことで上部工が変形しやすい構造になっている事や、増大する大型車交通による疲労亀裂が発生していた。

 橋梁全体の更新を進めるため、先行して既設の橋脚の間に新設の中間橋脚(上P1 ~ P6 の計7 本)を設置し、既存の上部工(橋桁・床版)の取り替え行う。

 

 

 

   狭い敷地に建設する目的で採用した橋梁構造(薄く軽量な上部工、小さい基礎構造)

 

 

 

 

大規模更新 主な工事事例

 

▶16号大阪港線の阿波座付近


 環状線からの合流部となる16 号大阪港線阿波座付近では、慢性的な渋滞対策として1997年、3車線から4車線への車線拡幅工事が実施された。その際、拡幅桁を支える新たな橋脚の設置位置に制約があり、既設桁と拡幅桁の橋脚位置を同一とせず、新旧の桁を構造的に連結しない構造を採用した。新旧の桁の境界部分にはゴム製の伸縮装置(=縦目地)を設置し、走行面を連続化したが、拡幅工事完了後より一部の区間にて大きな損傷・異常音の発生などの不具合が生じていた。

 これらの抜本的な対策として、既設橋脚の拡幅と拡幅桁の取替えにより独立していた桁・床版を一体化させ、縦目地構造そのものを撤去する。

 

 

橋脚の設置位置に制約があり、拡幅部と既設部で支点が異なっていた。

 

 

 

  

 

 

 

▶3 号神戸線 京橋-摩耶 RN 工事(工事完了)


 3 号神戸線(京橋~ 摩耶)は1968 年の開通から50 年以上経過しており、一部のコンクリート床版、鋼床版の劣化が進行している状況であった。そこで、安全・安心・快適を未来につなげるため、5月19日から6月7日までの19 日間で、終日通行止めによるリニューアル工事を実施した。道路の長寿命化対策として、コンクリート床版の取替え、高性能床版防水の設置、鋼床版の箇所には鋼繊維補強コンクリート(SFRC 舗装)へ置き換えた。また、安全対策として、カラー舗装の実施や案内標識の変更で、より分かりやすいように換え、サービス改善につながる工事もあわせて実施した。

 

 

 

 

   安全・安心を持続し、より快適なまちづくりに貢献

 

 2025 年に開催される大阪・関西万博を目前にひかえる中、長期に交通規制を伴う現在進行中の前述の工事事例については、万博開幕までに完了を目指す。また、2014 年度から実施している法令点検で近接目視点検の中で重大な損傷箇所が新たに22km の区間に確認された。現行実施している91kmのリニューアルプロジェクトに加えて、今後事業化に向けて調整をしてく予定である。 一方で、もう一つの課題である阪神圏のミッシングリンクの解消に向けて、淀川左岸線(2期・延伸部)、大阪湾岸道路西伸部の工事を進めている。 ミッシングリンクとは、途中で切れている未整備区間のことを指し、ミッシングリンクによる渋滞で、物流や観光など 経済活動が大きく阻害されているため、早期の解消を目指している。
 人々のくらしや経済を支える重要なインフラである阪神高速道路。これからも安全・安心な高速道路を長く未来へつなげ、より便利で快適な高速道路の整備を進めていく。