2017.09.26
利根川流域の洪水被害を軽減する
施工風景(2017年7月撮影) |
群馬県吾妻郡長野原町の利根川水系吾妻川に国土交通省が建設を進める八ッ場ダムの本体工事が佳境を迎えている。計画から70年。2019年度の完成が予定されている。治水・利水および発電を目的とした八ッ場ダムでは、下流の利根川流域の洪水被害の軽減と、その早期の効果発現が期待されている。
概要図 |
関東地方を直撃したカスリーン台風を契機に群馬県内に建設を計画 |
八ッ場ダムの計画は、関東地方を直撃した1947年のカスリーン台風がきっかけだった。埼玉県内で利根川の堤防が決壊し、氾濫面積は下流の東京都内を含む約440㎞2に及び、死者は1,100人に達し、約30万戸が浸水した。埼玉県内には、今でも電柱に当時の洪水の高さを示す赤いテープが張られているところもある。
そこで八ッ場ダムは、1952年に利根川改修改訂計画の一環として調査が開始され、1970年から建設事業に着手した。
堤高116m、堤頂長290.8m、堤体積約100万m3の重力式コンクリートダムで、総貯水容量が1億750万m3。利根川水系のダムの中で堤高は8位なのに対して、貯水容量は3位と効率の良いダムでもある。湛水面積は約3㎞2に及ぶ。
全体図(2016年10月) |
国土交通省が建設する八ッ場ダムは多目的ダムと呼ばれ複数の役割を果たす。まず、建設のきっかけにもなった洪水調節機能だ。八ッ場ダムには、6,500万m3の洪水調節容量があり、ダム地点の計画高水流量3,000m3/sのうち、2,800m3/sの洪水調節をすることで、下流の洪水被害を軽減する。
また、ダム下流に位置する名勝吾妻峡の景観などを保全するための流量2.4m3/sを確保し、吾妻川の流況改善を図る。
堤体上流面 |
堤体下流面 |
利水面では、地元群馬県のほか、下流の都県などに新規都市用水(水道用水・工業用水)として最大22.209m3/sの供給を可能とする。また、ダムの下流部には群馬県が八ッ場発電所を新設して、最大出力1万1,700kWの発電を行う計画だ。
高速施工を可能にした巡航RCD工法を採用 |
ダム本体のコンクリート打設に着手したのは、2016年。約100万m3に及ぶ堤体の施工を省力化し、工期を短縮するために採用したのが、「いだてん(YDaTen:Yamba-Dam Technology of Non-stop)」の愛称もある「巡航RCD工法」である。日本が開発したコンクリートダムの高速施工技術で、八ッ場ダム建設の最大の特徴でもある。
RCD工法自体もダムの合理化施工技術として開発された。スランプゼロのコンクリートを主に汎用の重機を用いて施工する。これをさらに進化させたのが巡航RCD工法である。
重力式ダムの断面は内部コンクリートと外部コンクリートによって構成される。
従来のRCD工法は、外部コンクリートを先行して打設し、打設ブロックごとに打ち止めるため、内部コンクリートは外部コンクリートの打設速度に施工が左右されていた。この課題を解決したのが巡航RCD工法だ。内部コンクリートを先行して打設することにより、施工能力を最大限に引き出せるようにしたものだ。内部と外部コンクリートの打設箇所を分離したことによって、錯綜作業が回避され、品質や安全性も向上する。
ダムサイトのプラントで製造されたコンクリートは、ケーブルクレーンなどにより打設面に下ろし、ダンプトラックで打設箇所まで運搬され、ブルドーザーで厚さ約25cmに敷き均し、振動ローラーで締め固める。これを4回繰り返して1mにする。
24時間体制で施工され、夜間にライトの浮かび上がる現場を見学する人も増えている。総事業費5,320億円の首都圏では最大規模のプロジェクト。計画段階では紆余曲折もあったが、2019年度の完成に向けて工事はピッチを上げている。
(2017年8月時点)
※図版の出典:国土交通省 関東地方整備局