2017.09.26

八ッ場ダム②

 

 「脱ダム宣言」による中断期間を経て

  治水や利水を含めて必要性を再確認


 

 

 

公共事業の中でも特にダムは、計画から完成までの期間が長い。早いものでも20~30年、半世紀以上掛かったものも数多い。八ッ場ダムは、建設の契機となったカスリーン台風から70年、調査を経て建設事業に着手してからでも47年が経過する。この間、政権交代による「脱ダム宣言」に伴う事業中止の期間もあったが、事業の検証を経て事業再開が決定。事業の検証によって、その必要性が改めて認識された。ダムの堤体が日々、打ち上がるなかで、現在では治水や利水などダム本来の機能に加えて新たな観光資源としても期待されている。

 

 

 

   下流の利根川流域を中心にして続発してきた台風による洪水被害

 

 

ダムサイト(2017年7月7日)

 

 

 

事業期間が長期間に及べば、経済状況が変化し、社会活動も移り変わっていく。建設を計画している施設そのものが必要なくなったり、現状に応じた計画変更が必要になる場合もある。「脱ダム宣言」は、もはや国内にダムは必要ないという、国内のダム事業そのものを中止するものだったが、多くのダムは事業の検証などを経て事業が再開されている。八ッ場ダムも同様である。

 

カスリーン台風後も下流の利根川流域では、台風による洪水被害が多発してきた。記憶にも新しいのが、2015年9月の関東・東北豪雨である。床下浸水が3,353戸、大規模半壊が1,648戸に及び死者を含む人的被害も発生した。利水面でも利根川では、1972年から2016年の間に16回の取水制限が実施されている。

 

事業を実施する国土交通省関東地方整備局では、事業についての再検討を重ね、2016年11月にも八ッ場ダム建設事業再評価の結果を公表している。学識経験者らで構成する事業評価監視委員会の検討内容をまとめたものである。八ッ場ダムの費用対効果については、建設に伴う洪水調節、流水の正常な機能の維持にかかる総費用が約4,508億円なのに対して、総便益は約2兆8,484億円となり、費用対効果を示す比率は6.3になるとしている。

 

事業費についても再検討し、2016年度に720億円増額して約5,320億円となった。その要因としているのが、地すべりなどの安全対策についての変更、工事の進展に伴って地質条件が明確になったことなどがある。地質については計画段階で調査を実施しているが、建設地全体を網羅しているわけではない。実際に工事を実施してみて、追加工事などの対策費用が発生することは少なくない。さらに、公共工事関連単価なども増額の大きな要因となった。

 

 

 

本体左岸(2017年7月20日)

本体右岸(2017年7月20日)

 

 

 

減勢工部(2017年7月19日)

 

 

 

 

一方で、コストの縮減にも取り組んできている。工事の設計・施工、管理計画の見直し、調査・設計の精度向上などによって約76億円削減できることがわかった。関連自治体の再評価に対する意見では、事業の継続と同時にさらなるコスト縮減に加えて早期完成に向けた工期の短縮などを強く求めている。

 

 

 

   付け替えた国道は高規格化 新たな観光名所に向けたプロジェクトも

 

 

川原湯地区代替地(2017年3月22日)

 

 

 

ダムの建設では、貯水池によって道路や集落が水没し、移転が伴う。八ッ場ダムでも、国道やJR吾妻線のほか、川原湯温泉も水没することになった。多くのダム事業と同様に反対運動などの紆余曲折はあったが、ダム事業による補償や受益者である下流都県の協力による水特事業、基金事業を生かして移転代替地で新たな発展を目指す動きになってきている。

 

ダム本体に伴う付替工事については1994年に建設省(現:国土交通省)が着手している。水没する国道145号は、地域高規格道路として整備された。吾妻線についても付け替え路線が建設されて、すでに完成している。

 

 

 

横壁地区代替地(2017年3月22日)

川原湯温泉駅(2017年4月24日)

 

 

 

かつての国道145号は、土砂災害の危険がある吾妻峡付近が連続雨量120mmを超えると通行止めになっていた。渓谷沿いを走り、道幅も狭く、交通の難所になっていたが、付け替えによって移動時間が短縮されるなど交通環境は改善された。ダム上流の代替地には、道の駅「八ッ場ふるさと館」が建設され、地元農産物や加工品、レストランなどを併設した複合的商業施設として行楽シーズンや休日には観光客で賑わっている。

 

 

 

   

「やんばツアーズ」チラシ

 

 

 

関東地方整備局でも観光プロジェクトに取り組んでいる。八ッ場ダムでは「日本一のインフラ観光ツアー」がキャッチフレーズ。個人と団体向けとを合わせて10のツアーを実施している。現場見学のほか、季節に応じて蛍鑑賞や紅葉見学、団体向けでは土木技術者や学生のほか、訪日外国人向けのツアーもある。水没を余儀なくされた地域もあったが、完成後も新たな観光資源としてダムをフル活用した地域経済の活性化を目指す官民共同のプロジェクトも動き出している。

 

                                    (2017年8月時点)

                         ※図版の出典:国土交通省 関東地方整備局