2018.03.20
中心市街地活性化(富山市)
全国に先駆けて取り組んだ富山市 |
中心市街地活性化基本計画の認定第1号となった富山市。2007年からの1期計画、2012年からの2期計画に加えて2017年4月からは3期計画を継続して実施している。
平坦な地形で、「家の1軒も建てられなければ男ではない」と言われるほど持家志向が高く、戦後は一貫して郊外への開発が進み、移動は自動車に依存してきた。
県庁や市役所などの主要な公共施設は市内中心部にあるが、市街地が拡散し続けてきた。全国各地の市町村と同様に大型店舗が郊外に進出して、かつては賑わっていた「総曲輪」と呼ばれる中心部の商店街は衰退した。
郊外へと拡散した結果、市街地の人口密度は42.2ha/人と県庁所在地の中で最も低くなってしまっていた。拡散に伴って自家用車の利用率も高まり、通勤は83.8%、買い物など全ての目的を含めた利用率は72.2%を占め、全国の中核都市の中でも最も高い比率になっていた。
拡散によって増加する行政コスト |
当然のことながら公共交通機関の利用者は減少し、1989年から2010年までの統計で、JRは29%、私鉄が43%、北陸地方で唯一の路面電車は38%、路線バスに至っては70%も減少した。
一方で、高齢者を中心に車を使えない市民の割合が約3割に達していたのが実情だった。さらに拡散によって除雪や道路清掃などの維持管理費は増加。住民一人当たりの行政コストは、2005年の2500円から20年後には2800円へと12%アップすると予測されていた。
これらを背景に富山市が全国の自治体の中でもいち早く実施することにしたのが、中心市街地活性化だった。目指したのは、公共交通を軸とした拠点集約型のコンパクトなまちづくりだ。
富山市が目指す「お団子と串」の都市構造 出典:富山市 |
第1期計画では、3つの柱と定量的な目標を設定した。
一つ目が公共交通機関の利便性の向上である。車に頼らずに暮らせる中心市街地にする。路面電車の利用者を1.3倍に増やす目標を設定して新たに0.9kmの路線を新設し、富山駅から中心市街地を周回する環状線路線にした。車両も都市景観に調和するよう新たにデザインして、電停(路面電車の停留所)や車道、歩道などを含めたトータルデザインを採用した。
廃線となった富山駅と郊外の岩瀬浜とを結ぶJR富山港線も富山ライトレールとして復活させた。わが国初の本格的ライトレール(次世代型路面電車)である。これによって高齢者の外出機会の増加や自動車からの転換によって平日の利用者は、2.2倍に増加した。
全天候型のイベント広場を整備 |
二つ目が賑わい拠点の創出で、歩行者の通行量を1.3倍にする計画だった。中心市街地の総曲輪に百貨店が移転するのに合わせてグランドプラザと呼ぶ全天候型の多目的イベント空間を整備した。約1,400m2の広さがあり、277インチの大型映像装置も設置。演奏会や蚤の市、さらには結婚式などで土日や祭日の利用率はほぼ100%になった。
グランドプラザ 出典:富山市 |
三つ目がまちなか居住の推進である。5年間で1.1倍に増やす目標を設定した。マンションなど良質な住宅の建設事業者への助成やこれらを購入したり、中心部に転居する市民に対する支援制度を設けた。
戸建て住宅志向が強い富山市では、1戸当たりの平均延床面積も日本一だった。しかし、市が中心市街地の活性化に力を入れたこともあってマンションの建設が増加し、完成前に完売するケースもでてきた。若い世代では住宅に対する意識も変わり、中心市街地での生活の利便性などに着目するようになってきたと見られている。
高齢者を支援する「おでかけ定期券」 |
高齢者を支援し、公共交通機関の利用を促進するために「おでかけ定期券」と呼ぶ制度も新設した。満65歳以上の市民を対象にして市内各地から中心市街地までのバスなど公共交通の料金を100円に割引するものだ。最も遠距離の場合は、通常ならば1200円程度かかる。65歳以上の市民の約24%が所有し、1日平均約2,600人が利用するようになった。
このほか、1期計画の成果としては、総曲輪の休日の歩行者数が5年間で56%増加し、路面電車の平均乗車人数も17%増えた。また、全国的には地価が下落しているが、中心市街地は横ばいで推移し、固定資産税や都市計画税などの税収が減少していない。専門学校の開設や分譲マンションの建設など民間事業者の投資も活発化している。
2017年4月からは3期計画を継続実施 |
続く2期計画では、1期で整備したグランドプラザ周辺の賑わいを中心商業地域全体に波及させるほか、北陸新幹線の開業に伴って二極化が想定される駅周辺と中心商業地区との回遊性を向上させることなどを目標にした。
区画整理や市街地再開発など25の基幹事業と41の効果促進事業を計画。中心商店街の空き店舗に出店する事業者に対して改装費や家賃を補助する「新規出店サポート事業補助金」を継続して実施するほか、「まちなか活性化事業サポート補助金」といった制度も継続するなどして民間投資を促進した。
さらに2017年4月からの3期計画では、中心市街地の活性化を市全体の活力向上につなげていく戦略を立てている。医療や福祉を充実させ、安全・安心なまちとし、健康で文化的な生活など魅力ある都市空間の実現を目指していく。北陸新幹線の開業も追い風となっている。富山駅の南北一体化を進め、中心市街地全体の回遊性を向上させていく。さらに高齢者がいつまでも元気に自立して暮らせる富山市版CCRC(生涯活躍のまち)の実現を目指している。
(2018年3月時点)