2018.03.27
ビルの再生
(事例①:セントポルタビル ②:マルヤガーデンズ)
利用されなくなったビルをリニューアルして中心市街地を活性化する |
中心市街地を活性化する手法として、利用されなくなったビルをリニューアルして活用する事例が全国各地にある。大規模商業施設や医療・福祉施設、市役所などの公共施設など多彩だ。いずれも郊外から人々を中心地に呼び戻すのが目的である。実施例は全国で100数例あるが、国土交通省の調査をもとに、ここでは代表的な4つの成功事例に加えて、市役所が移転した事例も紹介する。
収益力に見合った規模に減築する。地域貢献への熱意も後押し |
思い切った減築によって経済合理性を確保したのが、大分市のセントポルタビルである。1973年に建設された大規模商業施設の大分サティで、建物は地下1階、地上8階建てだった。施設の閉鎖後にビルを取得した地元の企業が実施したのが、地上の3階から8階部分を撤去し、残った地下1階から2階までをリニューアルして再生させる減築だった。
事業計画では、地元から要望の強かった食品スーパーをテナントとすることを前提に検討した。収益力のあるテナントを見込めない土地条件で、耐震基準を満たしていない古いビルだった。全面解体するとなれば多くの費用がかかる。減築の背景には、これら多くの困難な事情があった。
結果として、リニューアルによって耐震性が確保され、3階以上の商業施設に必要な避難階段が不要になり、フロア構成の柔軟性が確保できた。
施設の規模が需要に見合うようになり、維持管理コストも収益力に見合うレベルに下げることができた。2階屋上を駐車場として活用でき、利用しやすくなるなど多くのメリットがあり、成功に結びついた。
屋上駐車場 |
当初は、駅前という立地に対して収益力の低い食品スーパーでは、「不動産事業として成立しない」という評価が社内にあったという。それでも、このプロジェクトに取り組むことにしたのは、「地元企業として地域に貢献する」と社長が決断したからだった。
地元の商業事情にも精通する経験とアイデアを活かして導き出した結論が減築だった。不動産事業としての収益よりも地域貢献に対する熱意に支えられた成功事例とも言える。
リニューアル自体は民間事業だが、地下1階は大分市の無料駐車場にした。市が工事負担金と賃借料を支払っている。公民連携の事業でもあった。
コミュニティ施設を併設して買い物客以外も呼び込む |
鹿児島市では、百貨店をコミュニティを創造するテナント型の商業施設に再生した。1961年に建設された鹿児島三越をリニューアルしたマルヤガーデンズである。地下1階、地上8階建てで屋上も利用されている。
コミュニティスペースを設けることで、商業施設に来ることがない人をも呼び込むというアイデアが出発点。誰でも借りることができるフリースペースを地下1階を含めた6つのフロアに設置した。
地元のNPO団体を中心に週末は予約でほぼ一杯の状態で、1ヵ月の平均稼働率も5割を超えているという。買い物客以外を呼び込むことに成功した事例である。
地下1階が生鮮食品とフードコート、1~6階が衣料品や雑貨、書籍、7階が飲食店や映画館、8階がブライダルハウスというフロア構成で、夏には屋上でビアガーデンも開いている。
屋上庭園 |
三越の撤退表明後、可能な限り早く時間を掛けずに集約力のある施設に再生させることを目指した。そこで、リニューアルでは、避難安全検証法を用いて建築確認が必要ない改修にとどめた。
度重なる増築によって増えてしまった階段も同じ法律によって整理した。これによって、商業施設として使うことのできる面積の増床が実現した。生み出された増床部分はテナントスペースだけでなく、ゆとりやくつろぎを提供するスペースとしても活用している。
(2018年3月時点)
※図版の出典:国土交通省