2018.03.27
ビルの再生(事例③:悠楓園 ④:温泉プラザ山鹿)
商業施設を日本初の介護サービス対応型マンションに全面改修 |
日本ではじめてのタイプのサービス付きマンションに再生した事例もある。栃木県佐野市のツインハートビルである。建物は、1981年に建設されたもので、地下1階地上5階建て。デパートの十字屋佐野店として営業を続けてきた。
メインテナントであった十字屋の撤退後、再生策として打ち出されたのが、悠楓園と呼ぶサービス対応型マンションを中心とした全面改修だった。地下1階が駐車場、1階は老人介護施設と事務所、2~4階が悠楓園、5階は介護老人保健施設と会議室というフロア構成にした。
商業施設はフロア面積が大きい。マンションなどの居住施設に転用する場合には、建物の奥行の深さが問題になったりする。窓は少なく外光が建物内部まで差し込まない。そこで、悠楓園では2つの工夫をした。南側の外壁を後退させ、東西面には吹き抜けを設置して採光条件を改善した。
各フロアは中廊下を広くして障害者でも移動しやすいスペースを確保した。空調の効いた快適な空間であり、居住者のコミュニケーションの場としても活用できるようにした。
マンション中廊下 |
多目的スペース |
運営面での悠楓園の特徴は、介護サービス対応のマンションであると同時に入所制限や収入制限、年齢制限などの入居条件がない点にある。幅広い多様な居住者に対応できる施設とした。
地元で福祉施設を開設、運営してきた医師の経験を生かしたものだった。既存の入所型福祉施設や有料老人ホームでは対応しきれない居住者のニーズを見据えたものである。
1階には介護老人施設や介護サービス施設、医院が入居した。関連する複数のテナントが入ることによって、悠楓園の入居者への介護や給食などのサービスの提供が可能になり、不動産事業としての安定にもつながっている。
区分所有者の資産を明確に分離して全員の合意を形成した |
複数の所有者がいる建物の再生では、その合意の形成が大きな課題となる。そこで、各所有者の資産を明確に分離し実現させたのが、熊本県山鹿市の温泉プラザ山鹿である。
既存の建物は、商業や住宅などで構成される複合施設だった。中心となるビルは地上10階建て。区分所有建物であり、山鹿市と核店舗のサンリブ、管理組合の3者が約3分の1ずつ権利を保有していた。
再生のきっかけは、核店舗である商業施設の撤退だった。既存の建物は、1975年に建設されたもので現状の耐震基準を下回り、補強工事に過大な費用がかかることも分かった。そこで、山鹿市は、施設の老朽化や再生による合併などを踏まえて温泉施設(さくら湯)を別棟で建設して、独自で維持管理をする方針を示した。
さくら湯完成予想図 |
一方で、管理組合に所属する区分所有者の中には、撤退を検討している者もいた。地域の需要に見合わない過剰な商業床の解消も課題となった。対応策として、建物を一部解体して面積を減らし、撤退希望者の所有床は買い取ることにした。
3者の資産の明確な分離を図ったうえで、施設を再生する計画をまとめ、区分所有者を含めた85人の全員合意による建て替え決議が成立にこぎつけた。撤退を決めた50店舗分の権利床は、建て替え組合が改修工事後に時価で買い取り、さらに時価と改修工事負担金の相当額で協同組合が買い取ってテナントを誘致するなどの施設運営をすることにしたのである。
しかし、時価での購入には多くの抵抗があった。購入時点の坪単価は30万円~40万円だったものが、時価は約10万円程度。バブル期前には最高で120万円もして、その時期に購入した者もいたためだ。しかし、権利床を持ち続けると、所有している店を閉めても共益費を負担していかなければならない。こうしたことを丁寧かつ繰り返し説明することで、全ての合意形成にこぎつけたという。
さらに、その背景には長年にわたって務めてきた管理組合理事長の、「なんとか再生したい」という強い信念があった。熱意をもって区分所有者との協議を行ってきた立役者がいたことが合意形成に結びついたとも言われている。
建て替え組合が買い取った権利床は、合わせて約20億円。その原資は、暮らし・にぎわい再生事業補助金と戦略的中心市街地商業等活性化支援事業費補助金を活用した。山鹿市が整備を進めているさくら湯も暮らし・にぎわい再生事業補助金の対象となっており、市と組合が連携して戦略的に補助金を活用した再生の事例である。
(2018年3月時点)
※図版の出典:国土交通省