2018.03.27

地方創生⑦

 

ビルの再生(事例⑤:栃木市役所)


 

 

 

   閉店した中心市街地の商業ビルに老朽化し手狭だった市役所が移転する

 

新庁舎

 

 

中心市街地にある営業を停止した百貨店のビルに市役所が移転した。改修して議場も移した。栃木県の南部にあって蔵の街として観光名所にもなっている栃木市の事例である。

 

蔵の街通りとも呼ばれる市のメインストリートは、JRや東武鉄道の駅から徒歩15分程度にある。観光の中心地でもある。対象となったビルは、県内を中心に営業展開する福田屋が1990年に建設した。地域密着の百貨店だった。

 

地上6階建てで、延床面積が2万3,000m2余りあり、通りに面した建物の背後には立体駐車場もあった。当初は盛況だったが、郊外に大型店ができるなどして、売り上げが減少、2010年に福田屋は閉店することを決定した。

 

一方で、栃木市は既存の庁舎が建設から50年以上を経過して、町村合併などによって職員が増加し、手狭になっていた。

 

  

立体駐車場

  旧庁舎

 

 

庁舎の面積はわずか6,500m2。職員の数から換算すると3倍近い面積が必要だった。建て替えを検討していた時期でもあった。事業費は概算で約65億円。市にとっては大きな負担だ。

 

そこに舞い込んできたのが、福田屋からの閉店後の建物は市に無償で提供するとの申し出だった。試算したところ、移転のための改修費が約21億円で、3分の1程度で済むことがわかった。立地も中心市街地であり、市民も利用しやすい。駐車場もある。

 

委員会を設置して検討を重ねた市は、移転することを決定した。事業費が削減できるだけでなく、市民が訪れることによって中心市街地の活性化にもつながるのとの判断もあった。

 

 

 

   盛況だった1階の食品売り場は新たなテナントを募集して存続

 

閉店当時も賑わっていた1階の生鮮食品売り場は残すことにした。2階以上を市庁舎にしたのである。公募の結果、1階は残して欲しいという市民の要望が根強かった生鮮食品を中心に東武百貨店が入店することになった。1階部分の面積を除いても2階以上のフロアーだけで市役所が必要な面積を確保できるためでもあった。

 

  

オープンフロア(2階)

  事務室

 

 

ただし、商業施設だった建物をオフィスに改修するとなると、まず問題になるのが採光である。商業施設は窓が少なく、外光に頼らない照明設計をしている。そこで、商業施設では不可欠だった外部の避難階段を撤去して窓を設けた。

 

4階と5階部分には議場も移転した。高い階高と傍聴席も必要なので、4階の天井を撤去してワンフロアーにした。問題は耐震性能である。幸いにも建設当初に増築することを前提にしていたために基準を満たすことができた。

 

議場

 

 

事業費は、当初の約21億円から補修工事費などが膨らみ約28億円になった。さらに建物は無償だったものの土地や別棟の駐車場の購入費、備品や引っ越し費用、防災設備費などがかかり総額で約61億円となった。

 

試算を大きく上回ったが、市役所の移転跡地は再利用できる。中心市街地のメインストリートに市役所が移転できたという大きなメリットもある。その背景には、百貨店の閉店と市役所の建て替え時期が重なり、さらに県南部への進出を模索していた東武百貨店とのタイミングが一致したことによって実現した事例とも言えよう。

 

                                 (2018年3月時点)

                               ※図版の出典:栃木市