2018.05.22
都心部を迂回する環状路線の新設も
答申で示された地域の成長に応じたネットワークの充実を目指した16のプロジェクトのうち、最も大規模な構想として、区部周辺部環状交通の新設がある。
千葉県の葛西臨海公園から北上して西に向かい、赤羽を経由し、田園調布に至るループ状の路線である。都心に入らずに各地域の相互アクセスの向上を目的にしたものである。延長は60.7㎞、総事業費は1兆2,400億円に及ぶ。葛西臨海公園ではJR京葉線、赤羽駅でJR京浜東北、宇都宮、高崎各線と接続するほか、田園調布では東急多摩川線と結ばれることになる。
区部周辺部環状公共交通の新設 |
さらに、沿線では都心から放射状に伸びる鉄道網とも連絡し、新たな鉄道ネットワークが形成されることになる。実現に向けての大きな課題が事業費であり、中量軌道の導入や整備効果の高い区間から優先的に建設していくなどの検討が行われることを期待すると答申では指摘している。
もう一つの環状ルートが横浜環状鉄道である。鶴見から日吉、横浜市郊外の中山、東戸塚などを経て、市内中心部の元町・中華街に至る路線である。延長が34.4㎞。横浜市内の環状方向のアクセス向上を期待するものだが、総事業費は7,700億円掛かり、ここでも整備方法の検討が必要になってくる。
横浜環状鉄道の新設 |
京葉線を延伸して高速東西軸にする |
延伸や接続新線の建設によって新たなネットワークの形成を目指すプロジェクトもある。
その一つが都心から千葉方面への総武線と京葉線の接続新線である。京葉線の新木場から市川塩浜付近まで京葉線を複々線化して、ここから総武線の津田沼への路線を建設する。延長は合わせて38.5㎞、総事業費は6,200億円である。新木場駅ではりんかい線、津田沼駅では総武線との相互直通運転を行う。
総武線・京葉線接続新線の新設 |
一方で、現在は東京駅が終着の京葉線を西に伸ばして中央線に接続する新路線の構想もある。新宿を経由して三鷹駅で中央線に乗り入れる。延長19.5㎞、総事業費は4,500億円である。JRの湘南新宿ラインや上野東京ラインの高速南北軸に対して高速東西軸が形成されることになる。中央線との相互直通運転を行うことで東京西部から都心を経て千葉方面へのアクセスが向上する。これに合わせて三鷹から立川駅まで中央線を複々線化することも提案されている。
京葉線の中央線方面延伸および中央線の複々線化 |
貨物線を旅客との併用にする |
貨物線を活用するプロジェクトもある。東海道貨物支線貨客併用化と呼ぶものである。品川、東京テレポートから、浜川崎を経て横浜市内の桜木町に至るルートである。延長33.3㎞、事業費は5,500億円。併用化に合わせて一部路線は新設をする。都心部と横浜方面を結ぶと同時に途中にある京浜臨海部ライフイノベーション国際戦略総合特区へのアクセスルートとなる。事業化では、貨物輸送への影響も考慮した検討が必要になる。
また、浜川崎から川崎までは川崎アプローチ線の新設構想もある。川崎新町までは既存の南部線を改良し、さらに川崎まで新路線を建設して東海道線に接続する
東海道貨物支線貨客併用化および川崎アプローチ線の新設 |
このほか、答申では多摩都市モノレールや小田急多摩線の延伸、私鉄各線の複々線化計画なども盛り込まれている。いずれも利便性の向上や混雑緩和などを目指したもので、実現すれば利用者にとってのメリットは大きい。ただ、関係者間の調整や事業費の確保といったテーマが山積しているのも現実であり、今後の進展が注目される。
(2018年5月時点)
※図版の出典:国土交通省 東京圏における今後の都市鉄道のあり方に関する小委員会