2018.05.22
2030年を目標にした6つのテーマ
首都圏で鉄道関連施設の再整備が進んでいる。国土交通省の交通政策審議会が答申した「東京圏における今後の都市鉄道のあり方について」に沿ったもので、2030年を各事業の目標にしている。
6つの目標に沿って鉄道の新設や延伸、災害への対応、駅施設の質的進化、バリアフリー化の促進など多彩な事業が盛り込まれている
総延長は2,700㎞あまり 1,500駅が対象に |
東京圏の鉄道とは都心を中心に約50㎞圏内の範囲と審議会では規定した。地下鉄や民間鉄道、JRの在来線、モノレール、新交通システム、路面電車を含めた鉄軌道を対象にした。
答申は2016年4月だが、その時点で総延長は2,705㎞、駅は1,500を越えていた。
1950年代にはわずか1,500㎞あまりだったが、着実に整備が進み、世界的に見ても充実した鉄道網に発達している。
一方で、鉄道を取り巻く環境も変化してきた。少子高齢化や人口の減少、首都直下地震など災害のリスクも高まっている。
訪日外国人が増加するなど各国との国際競争が高まり、2020年には東京オリンピックも控えている。
これらの状況を踏まえて、より質の高い東京圏の鉄道ネットワークを構築して、空港アクセスを改善、列車の遅延などへの対応やバリアフリー強化などを答申に盛り込んでいる。
国際競争力の高い鉄道へ |
答申では、「東京圏の都市鉄道が目指すべき姿」として6つの項目を徹底している。
1つ目が「国際競争力の強化に資する都市鉄道」である。アジアの主要都市が急速に台頭してきている。都市間の競争力が激化し、東京圏の競争力の強化が喫緊の課題となっている。
交通は成長をけん引して経済成長を支える基盤であり、機能強化が求められている。国際競争力を強化する都市鉄道を実現するために航空や新幹線との連携強化、さらには国際競争力を高める拠点となる街づくりとの連携も必要だとしている。
2つ目は「豊かな国民生活に資する都市鉄道」である。サービス水準は世界のトップレベル。さらに豊かにするためには、混雑の緩和や速達性の向上、シームレス化を推進すべきだとしている。混雑緩和については、車両の長編成化や複々線化を進める。ソフト面では始業時間の変更やフレックスタイム制の導入などオフピーク通勤にも取り組む。これらによって東京圏の主要31区間での平均混雑率を150%にするなどの目標を設定している。
速達性は複々線化などによる輸送力の増強である。既存のネットワークを活用して相互直通運転を行うほか、新線の建設でもこれを念頭に整備効果を広範囲に普及させるのがミッションである。
3つ目は「まちづくりと連携した持続可能な都市鉄道」だ。急激な人口減少や少子高齢化など社会情勢を反映していく。「どこでも、だれでも、自由に、使いやすく」というユニバーサルデザインの趣旨を踏まえながら駅や車両などの鉄道施設を整備していく。無料公衆無線LANなど外国人にも利用しやすい環境にする。
災害対策をさらに推進する |
郊外では、少子高齢化や住宅の老朽化、コミュニティの希薄などを含めて鉄道事業者は問題意識と危機意識を持ち、地方公共団体とともに鉄道沿線のまちづくりに取り組むことが重要だとしている。
東京圏の鉄道は、ネットワークやサービス基準について世界的に見ても充実したレベルにある。ただし、駅については交通ネットワークのノード(節)としての役割やまちづくりの拠点としての重要性が増大しているのに対して改善の余地が大きい。
「全ての利用者にとって心地よくゆとりある次世代ステーションを創造していく」のが、4つ目の視点だ。バリアフリー化や外国人への対応、駅をまちの顔とするなど質的に進化させていく。
5つ目が「信頼と安心」である。わが国の鉄道は、運行の正確さで定評があるが、実際には遅延、遅れが日常的に発生している。朝夕の混雑から線路への落し物、さらには天候の不順による場合もある。事故や豪雪害の影響で何時間にもわたって乗客が車内にとじ込まれるケースが毎年のように発生している。鉄道事業者には、利用者への情報提供が求められている。
さらに6つ目として重要なのが、「災害対策の推進と取り組みの見える化」である。災害が発生して運行できなくなれば、駅には帰宅困難者が多く発生する。しかも、東京圏では首都直下地震の発生も高い確率で予測されている。
ハード面では高架橋などの耐震補強の対策を継続して進める。一方で大規模地震を想定した負傷者の救援救護体制、滞在者への救護体制の整備が求められている。
(2018年5月時点)