2019.07.24
コスト削減へ見直されてきた施設計画
設計者が変更になった新国立競技場
2020 東京オリンピック・パラリンピックのメイン会場となる新国立競技場。国が建設する唯一の施設である。
2012年にデザイン案を公募し、一旦は採用案が決定したが、白紙撤回され、建設までに紆余曲折を経てきたことは、これまでも再三にわたり報道されている。
問題はコストだった。採用案は当初予算を大幅に上回ることが判明したのである。開閉式屋根の設置を見送るなどしたが、それでも予算内に収まらず、2015年7月に新たな整備計画に基づいて公募を実施。当初予定していたコンサートやイベントなどの多目的利用は取りやめ、陸上競技などのスポーツ施設専用にする方針とした。
2015年12月に審査の結果、採用となったのが、大成建設・梓設計・隈研吾氏のグループ案である。鋼材と木材を組み合わせた屋根によって日本らしさを演出するといったことなどを特徴にしたものである。
地下2階、地上5階建て、延べ面積が19万4,000m2で、収容人員は、約6万8,000人。オリンピック大会終了後には陸上トラック上部に増設して8万人を収容できるようにすることなどで当初の建設費を抑えている。総工費は周辺整備を含めて1,550億円。2019年11月の完成を予定している。
臨海部を中心とした恒久施設 多目的利用も視野に入れる |
東京都が整備する8ヵ所の恒久施設は、続々姿を現してきており、2019年度にテストイベントが予定されている。再検討によって規模を縮小するなどして建設費を削減した。主に臨海部に建設される。
水泳の競技会場となる東京アクアティクスセンターは、約2万人を収容する。延べ床面積が5万8,000m2の計画だが、大会終了後は、1万5,000人に減らす方針だ。課題となる終了後の利用法については、競技会場としてだけでなく、都民のための水泳場としての機能も併せ持ち、高齢者から子供まで健康増進に利用できる施設にする。
東京アクアティクスセンター 建設中(2019年1月) |
ボートやカヌー会場となる海の森競技場は、当初の予定に比べて規模を大幅に縮小して建設費を削減した。防波堤を仕切って整備するが、地盤改良や防波堤の追加工事が必要なことが分かったためである。これらを見直して、当初の2分の1程度の約500億円に抑えることにした。大会終了後は、最高峰の水上競技場として年間30大会を目標に国際大会や全日本選手権大会を誘致する。さらに、都民の水上スポーツの体験や水上レジャーなど多彩なスポーツに親しめる場に活用していく。
バレーボール会場の有明アリーナも大会後には規模を縮小する。地上5階建てで延べ床面積が約4万5,000m2。大会時には仮設を含めて1万5,000人を収容するが、終了後には約2,000人分を撤去する。建設費は約360億円。バレーボールコート4面のほか、ハンドボール、さらにサブアリーナにはバスケットボールコートも配置できるようにする。大会終了後は、国内外の大規模大会の会場とするほか、コンサートや文化イベントなど多目的に活用し、年間140万人の来場を目標にしている。
有明アリーナ 建設中(2019年6月) |
負の遺産化をいかに防ぐか 課題となる大会後の施設の運営計画 |
国内初の人工スラロームを活用するのが葛西臨海公園である。カヌー会場として水路に人工的に流れを作り出す。大会後は国際大会や日本選手権の会場のほか、安定した競技環境によってアスリートの強化育成の場にもなる。
大井ホッケー競技場も大会終了後は規模を縮小する。大井ふ頭の中央海浜公園内にメインとサブピッチを整備する。メインピッチは大会時の約1万人収容から4分の1程度に、サブピッチは約5,000人収容から大幅に縮小する計画である。大会後は、国内でも数少ない公共のホッケー競技場としてだけでなく、公園内の周辺施設と連携して総合的なスポーツ・レクリエーションの場として活用していく。
このほか、アーチェリー会場の夢の島公園は、スタンドを仮設にするなどの計画変更をした。
フェンシングなど近代5種の会場となる武蔵野の森総合スポーツプラザは、仮設を含めて1万1,000人を収容する。
いずれの施設もオリンピック・パラリンピックを当面の目標に整備されているが、施設計画や仮設を採用するなどして建設費の削減に取り組んできた。さらに大会終了後にいかに活用していくか。負の遺産とならないためにも施設運営の具体策が課題となっている。
(2019年7月時点)