2019.06.19
人口減少で崩れてきた収支のバランス
水道法が改正されて水道事業が民営化されようとしている。
理由は施設の老朽化や人口減少など複数ある。要約すれば、コスト面で自治体では運営できなくなってきたので、民営化する。
国鉄や電電公社などの三公社五現業の過去の事例と同様ではないだろうか。
民営化されて水質など安全性は確報できるのか、災害時の対応は、料金はどうなるのかといった課題もある。民間活力を活用するというメリットがある一方で、不安は広がっている。
かつて、日本では「水と安全はタダ」と言われてきた。蛇口をひねれば、飲んでも安全な水は出てくる。しかし、世界的に見れば少数派にすぎない。
民営化は日本の水道事業を改めて見つめる好機でもある。
世界でもトップクラスの安全な水 |
海外旅行に行った時には、生水は飲まずにペットボトルの飲料水を多く人が利用している。
加熱したから安全と思ってコーヒーなどを飲んで体調を崩した人も多い。世界各国で水道は整備されている。
しかし、水質基準は異なる。水道水は洗濯などの雑用水、飲料水は買うものと思っている国もある。水道水が飲める国は、国土交通省の資料によると15ヵ国にすぎないという。
日本の水道整備は明治時代に遡る。かつては川の水や井戸水を利用していて、感染症が流行する原因にもなっていた。
防止するために安全な水を供給する水道が整備されるようになったのが、1887年、明治20年のことである。
都市部を中心にして整備が進み、大戦で中断した時期もあったが、高度成長期には急速に普及し、2015年度末現在で97.9%に達している。
普及していない地域があるのは、離島であったり、山間部などであったりして現在でも井戸水を使っていたりするためだ。
全国的に整備された、水道が諸外国に比べて安全に飲めるのは、水道法によって水質が全国一律に定められているからである。定期的に取水する川などの原水、浄水場の設備や水質が検査されている。
水道は、多くの場合、市町村が管理・運営している。都道府県が取水して浄水場で基準の水質にした水を受け入れて送水ポンプや配水場などの設備を利用して各家庭などに送水している。
収支のバランスが崩れてきた水道事業 |
水道事業は、自治体による企業会計に基づく独立採算によって運営されてきている。使用量に応じて水道料金を徴収し、これによって施設を維持管理してきた。この収支のバランスが崩れてきた。
要因の1つが、人口の減少である。人口が減れば水道の使用量も減少する。
日本の水道収入は2000年をピークに減少に転じて、40年後には約4割、100年後には約7割減少すると推定されている。
人口減少によって料金収入が減少する一方で維持管理のコストが増えてきているのがもう1つの理由である。
水道水を供給する管路の法定耐用年数は40年。多くの社会資本と同様に1960年代から1970年代の高度成長期に集中的に整備されたために相次いで更新の時期を迎えている。
耐用年数に達した管路の割合は総延長に対して2015年度末で13.6%。約10万kmある。
これに対して更新化率は0.74%にすぎない。単純計算すると全ての管路を更新するのに130年かかることになる。
更新費用は1km当たり約1億円かかる。さらに送水ポンプ場や配水場などの維持管理コストも掛かり、料金収入が減少していく一方で、必要な事業費は増加していくばかりなのが実情である。
多発傾向にある自然災害による被災 |
自然災害による被害もある。阪神・淡路大震災では約130万戸、東日本大震災では約256万7,000戸、熊本地震でも約44万6,000戸が断水した。
特に熊本地震では、その期間が最大で3ヵ月半に及んだ。大雨による被害も毎年のように発生している。
水道事業が抱えるもう1つの課題が職員の減少である。財政難などからピーク時の30年前に比べて、約3割減少している。
特に小規模なほど職員が少ない。給水人口が1万人未満の場合には平均して1~3人程度で運営しているのが実情である。
高齢化も進んでいる。経営基盤や技術基盤を強化していくためにも近隣自治体との広域化や官民との連携によって水道事業を支える体制を構築していくことが求められてきたことなどが民営化の背景にある。
(2019年6月時点)