2019.06.19

水道事業の現状と民営化を探る②  埼玉県さいたま市

 

黒字経営を確保していく


 

 

水道事業の民営化について実務を担当している自治体などは、どのように受け止めているのか。さらに、事業そのものの実情は。

 

首都圏の代表的な政令指定都市の一つである、さいたま市のケースを取り上げる。

 

 

   

 

 

 

まず、さいたま市とはどのような街なのか。2001年5月に旧浦和、大宮、与野の3市が合併して誕生し、2003年4月には全国で13番目の政令指定都市へと移行した。さらに2005年5月に旧岩槻市も合併している。

 

東京から30km圏の関東平野のほぼ中間に位置しており、周辺がすべて他の都市と接する内陸都市である。市域は東西約19.6km、南北19.3kmで、面積は217.43km2。政令指定都市としては、川崎市、堺市に次いで狭いが、県内の自治体では秩父市に次いで2番目に広い。

 

水道事業にも影響する地形は、河川に沿った低地と台地に区分される。大きな高低差はなく、標高が11~20m程度。距離的にも近い東京の近郊都市としてベッドタウン化が進んできた。

 

市内には東北、上越、秋田、山形、北陸新幹線のほか、宇都宮線、高崎線、京浜東北線などに加えて東武線や新都市交通のニューシャトルなど多くの鉄道網が整備されており、なかでも大宮駅は新幹線を含む鉄道の結節点であり、東日本の玄関口としての役割を果たしている。

 

人口は、日々変動するので概数で示すが約130万6,000人(2019年3月31日時点)、実際に水道を利用している給水人口は約130万5,000人。普及率は99.9%に達している。

 

給水量は、年間(2017年度)の総量が約1億3,205万m3で、1日平均で約36万m3である。単純計算すると住民一人当たり1日に0.28m3使用している。

 

水道事業は、税金による一般会計と異なり、企業会計による独立採算制であり、2018年の予算を見ると、収入が326億672万円、支出が280億7,503万円で、差し引き45億3,169万円余りの黒字である。また、施設整備などの資本的収支は、35億199万円の収入に対して支出が187億9,490万円。152億9,291万円の赤字であり、不足額については損益勘定留保資金や純利益によって補填している。

 

 

 

   全国でもトップクラスの耐震化率

 

さいたま市の水道事業は、かつて埼玉県南水道企業団が浦和市、大宮市、与野市を給水区域として実施してきた。

 

三市合併後に、さいたま市水道局として事業を経営しており、県の浄水場で浄化した水を購入して配水している。市内には20の浄配水機場があり、すべてポンプ圧送している。3階建て、20mの高さまで送ることができる圧力である。事業所や各家庭などへの配水管の総延長は3,606km(2017年度末の時点)に及ぶ。

 

     

 

配水管理事務所 中央管理室

 

 

 

配水管は、主にダクタイル鋳鉄管であり、水道法によって耐用年数が40年と決められている。東京都を含む政令指定都市等(千葉市と相模原市を除く)の平均経年化率が21.7%(2017年度末)なのに対して6.8%と、その低さはトップクラスである。

 

しかし高度成長期の急速な都市化による人口の急増に伴って建設した多くの施設の老朽化が進み、今後大規模な更新の時期を迎えることになる。

 

さらに、さいたま市は首都直下地震による被災が想定されるエリアであることから、水道施設の耐震化も併せて進める必要がある。

 

 

耐震性の高い水道管

 

 

 

2017年度末の管路の耐震化率は、千葉市と相模原市を除く政令指定都市の平均が25.6%なのに対して47.3%に達している。

 

これは水道料金とも関係する。水道料金を算定する基となる「水道水を使用者に届けるために要する経費」は、1m3当たり政令指定都市の平均が156円43銭なのに対して183円14銭と17%程度高い。耐震化などの施設整備に積極的に投資してきた結果、減価償却費も平均を上回っている。

 

 

 

   民間への業務委託で職員を削減

 

さいたま市では、水道事業の基本理念などを示したさいたま市水道事業長期構想(以下「長期構想」という)を2004年に策定し、現在は構想の実現に向けた第3次のさいたま市水道事業中期経営計画に取り組んでいる。

 

期間は、2016年度から2020年度までの5年間。長期構想の3つの基本理念に基づき安全、安定、災害対策、サービス、経営、環境の6つの基本施策を実施している。

 

 

 

さいたま市水道事業長期構想の位置づけと基本理念・施策

 

 

 

さらなる水質向上のため、水源の90%を占める県営水道に対しては、高度浄水処理の導入を働きかけている。

 

一方で主な水源である利根川と荒川水系では渇水に見舞われたこともある。自然災害への対応も求められている。

 

そこで、地震や渇水に強い信頼性の高い水道を構築していくために、浄配水機場や配水管などの施設の耐震化をさらに進めるとともに事業継続計画(BCP)の整備や災害時の復旧に必要な資材の確保、発生時の訓練などを実施している。

 

さらに水の圧力と流量を利用した小水力発電設備といった省エネルギー化や資源リサイクルなどの環境対策にも取り組んでいる。

 

 

小水力発電設備

 

 

 

長期構想の基本施策の一つである経営については、市の行財政改革推進プランとの整合性を図りながら、財政基盤をより強固なものにしている。

 

すでに従来は職員が行ってきたメーターの検針や料金の収納、電話受付センター業務、漏水調査などは民間に委託している。

 

 

水道局電話受付センター

 

 

 

3市の合併当時457人だった水道局の職員は、岩槻市水道事業を引き継いだ時に若干増えたものの、2017年度末で369人まで減少している。ただし、この民間委託は、今回のテーマである民営化とは基本的に異なっている。

 

地形が平坦で、供給先の事業所や住宅が集積している地区が多いさいたま市は、比較的に効率的な水道事業経営を実施できる条件が揃っている。

 

節水型機器の普及やライフスタイルの変化、地下水利用専用水道の拡大により、1件当たりの使用量は減少傾向にある。同時に、料金収入の増加も見込めない状況であるが、経費の節減によって損益収支の黒字を確保している。

 

今後も市が主体となって水道事業を展開していく方針で、現時点では、官民連携の形態の一つである、事業運営権を長期に渡って譲渡するコンセッション方式の導入は考えていないという。

 

                                  (2019年6月時点)