2019.06.19

水道事業の現状と民営化を探る③

 

水道事業の救世主となるか "民営化"


 

 

水道の民営化には複数の形態がある。すべて公営で行っていたものを完全民営化するものと一部民営化に大別される。

 

かつて民営化の代表例と言えば鉄道だったが、日本国有鉄道からJR各社に分割民営化され、施設の建設、維持管理、運行業務を含めて完全に民営化された。

 

水道の民営化も同様に思われるが、完全民営化を除けば、内容は異なる。国鉄の民営化では不採算路線が廃線されてきたのに対して、水道の場合は当然のことながら許されない。

 

世界でも有数の水質も維持していかなければならない。民営化の背景には国鉄と同様に赤字経営があるが、諸外国の先例をみるとむしろ逆行するとの指摘もある。

 

 

 

   51項目に及ぶ水質基準

 

現在でも井戸水や湧水を利用している家庭や事業所などを除けばわが国の水道普及率はほぼ100%近い。自然の水を利用できているのも豊富な水源があればこそで、地域ならではの水質を活用している酒造メーカーなどもあれば、街中のいたるところに伏流水が湧出している地域もある。

 

これに対して水道水は、主に河川から取水した水を浄化している。水道法では51項目に及ぶ水質基準があり、蛇口から出てきた水を直接飲むことができる世界でも有数の水質が維持されている。

 

その水の流れを概観すると、水源の多くはダムに依存している。ダムによって蓄えられた水が渇水期でも安定的に河川によって下流の街に供給され、取水して浄化した後に、水道水として供給される。

 

 

 

 

 

取水や浄水場の多くは都道府県の施設で、実際に水道事業を行っている市町村は浄化された水を購入して事業所や家庭に供給している。

 

民営化の議論の対象となっているのは、この市町村が実施している供給事業である。水質については、すでに都道府県の浄水場で確保されている。地下水を併用しているケースもあり、この水質についても水道法の基準に沿って検査されている。

 

 

 

   一部民営化方式にも複数の形態

 

水道の民営化のうち、完全民営化方式は、施設を含めて民間に売却し、永久に民間が水道事業を運営するものであるが、現在のわが国の状況からはあり得ない方式と言えよう。

 

さいたま市のように人口が集積した地域ならば、従来通り自力で運営できる。一方で、供給先が分散している過疎地などでは、採算重視の民間が乗り出すことはまずない。鉄道のように赤字だからといって廃線にはできないのである。

 

水道法の改正で可決された改正内容は、水道事業の運営権を民間に売却できる仕組みが盛り込まれたもので、主に対象としているのも一部民営化方式である。7種類に分類、整理されている。公設民営が3、民設公営が1、その他の方式が3である。

 

 

公設民営化                  出典:厚生労働省

 

 

 

完全民営化                  出典:厚生労働省

 

 

 

すでに導入事例があるのが、公設にも民設にも属さないコンセッション契約で、水道事業の経営責任を20年~35年の長期にわたって民間に譲渡する。

 

静岡県浜松市が全国に先駆けて導入し、検討している自治体もある。

 

 

コンセッション事例(下水道)           出典:内閣府

 

 

 

BOOT契約と呼ばれるものも、いずれにも属さず、新たに民間が施設を建設して所有、運営して、契約期間終了後に自治体に所有権を移転する。一部民営化ではあるが、事業権、施設の所有権ともに民間にあり、期間限定とは言っても完全民営化に近い。

 

もう一つが公と民とが合併会社を設立するジョイントベンチャーである。

 

公設民営としては、事業設備を民間にリースし、事業権の委託契約を結ぶリース契約、同様に施設は公共組織が所有して民間は追加的な投資をせずに事業を行うO&M、一部の機能について2~3年の契約期間に限って民間に経営管理を任せるサービス契約がある。

 

民設公営では、民間が新たに施設を建設して公共組織にリースするBLTと呼ぶ方式がある。

 

すでに多くの自治体が料金徴収など一部の業務を民間に委託しているが、今回の水道法改正による民営化とは内容が異なる。施設の所有を含めて、水道事業そのものを民間に委託しようというものである。

 

 

 

   期待する民間のノウハウと事業の効率化

 

民間のノウハウを活用できるメリットはある。事業の効率化によってコスト削減ができる可能性もある。

 

しかし、水道事業は料金収入と事業者である地方自治体が発行する企業債で賄われてきた。公共事業であっても独立採算であり、赤字に悩まされるようになってきたのである。

 

人口の減少によって使用量は減り、料金収入は減少している。一方で、施設は老朽化し、更新や維持管理コストは増えてきたことなどが背景にある。

 

 

 

 

 

海外では、事業費などを捻出するため委託した民間事業者が水道料金を大幅に値上げしたという事例もある。

 

民間は当然のことながら採算を重視する。わが国では地震などの自然災害が多く、水道管などの設備が被災した事例も多い。早期復旧が求められるのはもちろんのこと、突如として新たな事業費が必要になる。

 

方式にもよるが、民営化した場合に誰が負担して責任を負うのか。水質についても浄水場で管理されているとは言うものの、水道管などの供給設備が老朽化すれば影響する可能性はある。

 

果たして民営化が経営の行き詰った水道事業の打開策となるのだろうか。

 

水道法の改正は、安全でいつでも自由に飲んだり、利用したりできる水道事業のあり方について考えさせられる機会にはなった。

 

ただし、鉄道や電信・電話、郵便などの民営化とは異なる。「命の水」の供給事業に採算性を求めること自体を含めて再考する時代を迎えているのかも知れない。

 

                                  (2019年6月時点)