
各地で相次ぐ道路陥没事故は、インフラ施設の劣化リスクの切迫性と適切な定期点検の重要性を改めて浮き彫りにしている。国土交通省は橋梁やトンネルなど道路構造物の点検の効率化・高度化を推進するため、点検に活用可能な技術の性能値等を取りまとめた「点検支援技術性能カタログ」を2019年度に策定して以来、対象項目や掲載技術の拡充に継続して取り組んでいる。2025年4月には橋梁、トンネル、舗装の点検および道路巡視に活用可能な60技術が追加され、同カタログへの掲載技術数は375まで増えている。
| 直轄国道で点検支援技術の活用を一部原則化 |
わが国の道路構造物のストック数は、橋梁が約73万橋(延長2m以上)、トンネルが約1万1千本とされ、これらの多くが高度経済成長期に建設されたことから、年々老朽化が進行する重要インフラの維持管理が大きな課題となっている。2013年の道路法改正を受けて、国交省は道路構造物の法令点検に関する基準を整備。2014年から道路管理者には近接目視を基本とする5年に1度の定期点検が義務付けられた。
橋梁やトンネルの点検では、各所を近接目視するために高所作業車の導入が必要となるほか、床版の段差や遊間の計測、覆工のひび割れ等の確認やコンクリート部材の打音検査などは従来、人力に頼っており、点検・記録作業に多くの手間と労力を要する上に通行規制に伴う交通への影響も避けられなかった。一方、これら点検業務の効率化や危険作業の軽減を図ろうと、近年、ドローンを用いた画像計測やレーザー計測による非破壊検査といった新技術の研究開発も活発化してきている。こうした背景を踏まえ、国交省は点検の効率化・高度化につながる新技術の積極的な活用を図るため、法令点検が2巡目を迎えた2019年、新たに「点検支援技術性能カタログ」を策定した。
同カタログは、橋梁、トンネルなど各構造物の特性に応じて国が定めた標準項目に対する性能値を技術公募で開発者に求め、開発者から提出された技術の性能値等をカタログ形式で取りまとめたもの。道路管理者が点検支援技術の利用を検討するに当たって、導入機器等の性能を比較・整理する上で参考にすることができる。
掲載技術は当初、「橋梁」と「トンネル」の19技術からスタート。その後、民間の活発な技術開発姿勢を反映して対象分野と掲載技術数が年々増加。2022年度に「舗装」、2023年度に「道路巡視」と「土工」分野の掲載を開始し、2025年4月現在、合わせて375の点検支援技術が掲載されている。国交省は直轄国道の点検において、2022年度から橋梁・トンネル、2023年度から舗装、2025年度からは道路巡視を含め、特定の項目について点検支援技術の活用を原則化しており、基本的にカタログ掲載技術の中から選定している。

| 掲載技術の更なる拡充へ技術公募実施 |
2025年度に新たに同カタログに掲載された技術は、「橋梁」=画像計測13、非破壊検査8、計測・モニタリング10の計31技術、「トンネル」=画像計測3、非破壊検査2、計測・モニタリング1の計6技術、「舗装」=ひび割れ率・わだち掘れ量・IRI(国際ラフネス指数:舗装路面の平たん性に関する評価指数)16技術、「道路巡視」=ポットホール・区画線の摩耗・建築限界の超過・標識隠れ7技術。
具体的にみると、例えば「橋梁」では、斜張橋の斜材ケーブル上を移動しながら斜材の表面を撮影して変状や損傷状況を把握できる自走式斜材点検ロボットをはじめ、ドローンに搭載した赤外線カメラの画像を解析し表面温度分布の違いからコンクリートの“うき”を検知する変状調査技術や、GNSS(衛星測位システム)を用いて遊間の変位を測定し解析結果がスマートフォンなどで確認できる計測・モニタリング技術などが追加された。

国交省は点検支援技術性能カタログ掲載技術の更なる拡充を図るため、2025年度は6月に「道路土工構造物点検及び防災点検の効率化技術」を、8~9月にかけて「橋梁、トンネルの点検支援技術」をそれぞれ公募した。特に土工構造物等は全道路延長の約8割を占めるほど施設量が膨大で広範囲に及ぶ半面、点検は主に近接目視によって行われており、長大法面など高所での点検・調査は危険作業でもある。近年、背面地山の風化による法面災害が頻発していることもあり、吹き付け法面を対象として近接目視によらない点検や、地形判読等の人的誤差を低減させる点検などに活用可能な技術を求めた。インフラ維持管理に伴う危険作業を軽減し、安全で効率的な点検を可能とする新技術の活躍に期待がかかっている。
ハンディスキャナによる点検支援技術「RS10」
GNSS-RTK、LiDAR、SLAM 技術を融合した高精度ハンディ型3Dレーザースキャナ。屋内外を問わず、複雑な測量環境でも安定した精度と効率的なデータ収集を実現する。 「RS10」は、国土交通省が定める性能試験を経て、令和7 年4月発行の「点検支援技術性能カタログ(橋梁・トンネル)」に掲載された。高度な測定技術を誰でも使いこなせる点検支援システムとしての有効性が認められ、橋梁やトンネル、舗装、道路巡視など、多岐にわたる点検業務での活用が推奨されている。
画像撮影システムを用いた橋梁点検画像の取得技術
この技術は、UAV に取り付けたカメラで対象物を撮影し、その撮影データを「コンクリートのひびわれ画像解析プログラム t.WAVE」(大成建設㈱ 開発)で解析する橋梁点検技術である。
非GPS環境対応の自律飛行ドローンとAIを活用した橋梁点検支援技術「SIVION」
この技術は、LiDAR ※搭載ドローンで生成された橋梁の3Dモデルを基に、橋梁の画像を自動で撮影し、AI で損傷を分析する点検支援技術である。回転型LiDAR を搭載したドローンがリアルタイムで3D モデルを生成。点検箇所を指定すると、点検経路が自動で作成され、ドローンが取得した画像から損傷箇所とその程度をAI によって自動検出する。結果はデジタル管理される。 ※ LiDAR とは「Light Detection And Ranging」の略。レーザーの照射で対象物から反射し戻るまでの時間等を計測し、対象物までの距離や形を測定するもの。
全磁束法によるケーブル非破壊検査
全磁束法はケーブル内に流れる磁束の量がケーブルの断面積に比例する原理を利用した検査法である。ケーブルを磁化することでケーブル内に磁束が流れ、その磁束を計測しケーブルの断面積へと換算する。 ソレノイド式全磁束法は磁化方式に電流磁気を用いる。電流をあげ、磁化力を強めることで、磁束密度を飽和漸近領域まで到達させる。健全部、健全部以外の断面積(飽漸近領域の磁束)を比較することで、断面の変化、欠陥(主に腐食)状況を定量的に評価する方法である。 永久磁石式全磁束法は磁化方式に永久磁石を用いて、ケーブル長手方向に移動しながら欠陥を定性的に検知し評価をする方法である。また磁束密度を検知することでケーブル断面内での位置関係を把握する。
ドローン・スマホ・ソナーによる橋梁全体の状態・形状計測技術
•本技術は、スマートフォン、ドローン、水中ソナーを用いて橋梁全体の状態(特に洗堀状況)を把握する技術である。 •地上部は、ドローンを用いて全体の形状を計測、狭隘部をスマートフォンのライダー機能を用いて計測する。 •水中部は、ソナー技術を用いて反射波映像で基礎部、河床の形状を把握する。また、水中部のソナー計測結果と下部構造位置の整合をとるため、ドローンによる3次元モデルを構築する。
塩分センサ
コンクリート中の塩化物イオン(Cl -)量の試験方法として、JIS A 1154が規格化されているが、この試験方法は試験室での計測が前提となり、所定の試料調整および測定装置を必要とするため時間と手間を要する。近年では、簡易な測定方法として、ポータブル電量滴定法やポータブル蛍光X 線分析法を用いた測定方法が多くなってきているが、現地で誰でも簡易に測定できる調査手法は確立されていないのが現状である。 そこで、電位と塩化物イオン濃度の相関からCl -量を測定する技術を開発した。電気化学的アプローチにより銀塩化銀電極を用いてCl -量を測定する技術である。
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